特にやや古い楽譜に多く見られますが、小節の総音価からなる単一の音符を、本来の配置よりも小節の中央もしくは中央寄りに配置されることがよくあります。
コンピュータ浄書の時代でも、中央寄りの配置をわざわざやっている浄書家も稀にいますが、浄書ソフトでは右図のような中央寄りの配置に対応していないので、このような配置法は失われつつあります。
ただ、数々の楽譜を見る限り中央寄りの配置は確かに存在するルールだと思えますが、私には中央寄りの配置を行う理由が分かりません。同じ浄書家であっても中央寄りの程度が楽譜によって様々であったり、中央寄りの配置にすべきと思われる楽譜であっても、通常の位置に配置される場合があるために、中央寄りの配置に法則性が見えないのです。
今回は、中央寄りに配置された実際の譜例を示しながら、いくつかの仮説を立てて行きたいと思います。中央寄りの配置の理由や法則を知っている人がいるなら、どうぞコメントをください。
狭い小節幅では中央に配置する方がバランスが良い説
単一の全音符で構成された小節は、スペースの節約のためにスペーシング比率を全く考慮されないような極めて狭い小節幅にされることがあります。上の譜例では全音符は四分音符とほぼ同じぐらいの幅しかありません。
このように極めて狭い小節に全音符を配置する場合は、小節中央に配置した方がバランスが良さそうに見えます。
しかし上のように全音符を中央に配置しても良さそうにも関わらず、通常の位置に全音符を配置している譜例もあります。この譜例の浄書家は、下の譜例のように全音符の中央配置もやっています。
これらの譜例を見ると、小節幅が狭いことは中央配置の絶対条件ではないように思えます。狭い小節で中央寄りにしない譜例もあれば、広い小節で中央寄りに配置する譜例もあります。
全休符の位置に準じている説
小節の中央配置と言えば、全休符は常に小節の中央に配置されます。全音符が中央配置されるのも、全休符の位置に準じていると考えることが出来そうです。確かに右図のように、特に狭い小節では通常の位置に全音符を置くと、中央配置の全休符と位置がずれているように見え、あまりバランスが良くないように見えます。
ただ、完全な中央配置であれば、この説はもっともらしいのですが、完全な中央ではなく、通常の配置よりも若干中央寄りの配置にする譜例も左図のように多く見られます。小節を満たす全休符が中途半端に中央寄りに配置することは無いので、全休符の位置に準じているという説では、中央寄りの配置を説明出来ません。
右の譜例のように、音符を中央寄りの配置にしつつ、完全に中央に配置する全休符には合わせない例も見られます。全休符の位置に合わせないのであれば、必ずしも全休符の位置に準じて全音符を配置しているとは限らないようです。
小節の左右比のバランスを整える説
小節の総音価からなる単一の音符がその小節を満たす時、小節の空間が一つの音符によって分断されます。通常の配置では左図上のように、音符の左側の空間に対し、右側の空間が広すぎてアンバランスに見えるかもしれません。全音符を左図下のように中央寄りに配置することで、左右の空間比を矯正し、見た目のバランスを良くしていることが考えられます。
色々な流儀がある
小節の総音価からなる音符を小節の中央寄りに配置するルールについて、これがいかなる理由でされるようになったのか、またどういう法則で中央寄りの配置にされるかは、今のところ私にはわかりません。恐らく中央寄りの配置法は浄書家毎にも異なっていて、浄書家の美的センスによって感覚的に中央寄りの程度を変えている気もします。
ただ、音符の中央寄り配置はハンコ浄書、彫版浄書の末期に作られた楽譜にも多く見られることから、伝統的なルールであって決して浄書の間違いとされるべきものでは無いと考えています。
もしこの中央寄りの配置に関して、何か知っていることがありましたら、ぜひコメントを頂けると有難く思います。
2019年5月13日月曜日
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