2019年11月20日水曜日

連載「MuseScoreの音符間隔の仕様と有効な手法4」

第四回 「一段一小節法とMuseScore3」
 MuseScore3においてもこの一段一小節法は有効です。第三回で述べた通り、リピート線や調号はMuseScore3では小節の途中に入れることができるために、MuseScore2よりも一段一小節法は広い範囲で使えます。さてMuseScore3ではリピート線の仕様に重大な変更があります。実はこの新手法はMuseScore3のリピート線に対し、その仕様変更の影響が限定されます。今回は、MuseScore3でのリピート線の仕様変更と新手法の効果について、お話したいと思います。

MuseScore3でのリピート線の仕様変更
 MuseScore3ではリピート線の記譜スタイルが右図のようにMuseScore2から大きく変更されています。以前この記事で述べましたが、このスタイルは間違いでこそ無くとも、現在の楽譜出版社の間では全く一般的ではありません。またMuseScore3の仕様には無理があり、その結果バグを引き起こしています。私はこの仕様はMuseScore2と同等のものに戻すべきだと考えています。ここではMuseScore3で採用されているリピート線のスタイルを"Gouldスタイル"と呼称します。

MuseScore3でのリピート線の深刻なバグ
 MuseScore3では、リピート線終端+始端の間に拍子記号・調号・音部記号が配置されます。MuseScoreのリピート線は、本来小節線として機能しています。元々一つの小節線としてリピート線終端+始端が配置されるのに、拍子記号・調号等によって、それが2つに分割されます。このリピート線が2つの小節線に分割された状態から、分割の原因である拍子記号・調号などを削除しても、MuseScore3では分割されたリピート線は二度と元には戻らなくなってしまいます(*)。小節そのものを削除し新たに小節を挿入しない限り、元に戻す方法はありません。MuseScore3.3においてもこのバグは健在です。※MuseScore3.4ではバグは解消されたようです。

*関連記事:MuseScore3よりもMuseScore2を使う理由。

一段一小節法とMuseScore3のリピート線
 一段一小節法を使う場合、MuseScore3でMuseScore2スタイルのリピート線を再現することが可能です。小節の途中に挿入されたリピート線終端+始端においては、調号等によって分割する仕様を現時点ではMuseScore3は持ち合わせていないようです。リピート線の仕様変更が不十分であるがために、幸いにもMuseScore2仕様のリピート線が再現できるのです(逆に一段一小節法でGouldスタイルリピート線を作るのは難しい)。

 小節の途中に調号とリピート線を挿入すると、MuseScore3は左図のようにリピート線始端の左側に調号が配置されます。一般的にはリピート線始端の右側に配置されるべきで、これはGouldスタイルの影響ですが、本来のGouldスタイルではリピート線終端+始端は調号によって分割されます。MuseScore3では小節途中に挿入されたリピート線を分割する仕様が幸いにも実装されていないために、Gouldスタイルを否定する余地が残っています。
 調号をリピート線の右側に移動させるために、インスペクタで調号の自動配置を無効にします。ここが有効のままでは調号はリピート線を越えられません。リピート線の位置を整えたら、調号分の不足するスペースを音符の「割振り」の「前の間隔」で補います。このようにして、MuseScore2スタイルのリピート線を記譜することができます。拍子記号が含まれる場合は現実的に可能な手法は無いので諦めてください(リピート線の自動配置を無効にしても、分割されたリピート線は重ねることができないので、分割そのものを回避できない場合はおそらく無理です。MuseScore2を使ってください)。


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関連記事
MuseScore3のリピート線の位置について
MuseScore3よりもMuseScore2を使う理由。

2019年11月7日木曜日

連載「MuseScoreの音符間隔の仕様と有効な手法3」

第三回 「音符間隔を無調整で揃える新手法」
 MuseScoreのある優れた挙動を利用すると、音符間隔を個別に調整せずとも、音符間隔を無調整で揃えることができます。第三回ではこの方法を紹介したいと思います。

諸悪の根源は伸縮する小節幅
この音符間隔が小節ではなく段基準で実現できるべきである
 MuseScoreで音符間隔が揃わない要因は、「小節」だと考えます。小節基準で音符間隔の比率が変動し、小節そのものが小節内の構成要素によって伸縮することが要因です。さてMuseScoreは小節内の音符間隔は揃っています。すなわち段の中の音符間隔が小節の中の音符間隔と同じ挙動であったなら、何の問題も無かったのです。

段を一つの小節で構成する「一段一小節法」
 段を単一の小節で構成し、それを本来の小節数に縦線で分割することで、音符間隔はデフォルトで揃います。これによって段の中の音符間隔の挙動を、小節の中の音符間隔の挙動と同じにするのです。


 この手法では、楽譜入力したファイルとは別に浄書用に新規にファイルを作ることをお勧めします。まず、浄書用のファイルで、右図のように1小節ずつ「譜表の折り返し」を挿入しておきます。

 1段に4/4拍子を4小節入れる場合、小節の実際の拍数を16拍に設定します。MuseScoreの小節は、「小節プロパティ」で拍子記号とは異なる拍数にすることができます。「小節プロパティ」の「小節の長さ」の「実際」の値は、浄書する楽譜の1段の拍数に設定します。


 一段分の拍数に設定して一段分の音符を入力したら (*) 、4/4拍子であればパレットから縦線を4拍ずつ挿入していきます。
*浄書用のファイルで、全ての段で小節の拍数を段の拍数に設定したら、元のファイルから音符をコピーペーストすると楽です。

 この手法では、1段が1小節として処理されているので、小節番号がずれます。従って小節のプロパティで小節番号を手動で調節する必要があります。このことからも、楽譜入力時のファイルとは別に浄書用にファイルを作成し、楽譜入力時のファイルで小節番号を参考にしつつ、浄書用ファイルで「小節のプロパティ」から「小節番号の増減」で手動で合わせると良いでしょう。


この時の割振りの挙動を見よ
デフォルトで割振り(後の間隔)の挙動
段を単一の小節で構成した時の割振り(後の間隔)の挙動
 この手法では、段を1つの小節で構成しているために、「小節幅の伸縮」の機能は使えません。また「割振り」の「小節全体の幅を伸縮させる挙動」も、「小節の幅=段の幅」で固定されているために無効化されます。従って、この手法においては「割振り」は個別の音符間隔を伸縮させることが可能です。
 ※「割振り」のある程度の数値までは、音符間隔が変化しませんが、その数値を超えると個別の音符間隔が伸縮します。「割振り」はあくまで「加算されたスペース」の増減の機能なので、素の音符間隔を狭めることはできません。

注意すべき点
・常に同一小節内と判定されるので、必要な臨時記号が抜けます。
・全休符は通常小節の中央に配置されますが、この手法では段で一つの小節と処理されるので、拍に合ってしまいます。手で中央に合わせる必要があります。
・声部が複数あるときに符尾の上下に注意してください。同一小節で処理されるため、複数の声部があると、声部1が常に上向きになります。

「一段一小節法」の限界
 この手法はMuseScoreの小節の概念を否定するものです。したがって、小節に依存する機能が含まれる部分には使えません。MuseScore2では拍子記号、調号、リピート線は小節に依存するために、それらが途中に含まれる段ではこの手法は使えません。
・拍子記号
 MuseScore2,3共に、拍子記号は小節の途中に挿入できません。拍子記号と小節は密接に関連があるので浄書ソフトとしては当然でしょう。したがって段の途中で拍子記号が変わるような部分にはこの手法は使えません。
・調号
 MuseScore2では調号を小節の途中に挿入できないため、転調する箇所が含まれる段には、この手法は使えません。ただし、MuseScore3では小節の途中の拍で調号を挿入できるので、この手法は使えます。
・リピート線
 MuseScore2ではリピート線を小節の途中に挿入することができません。したがって複数の譜表を含む楽譜ではこの手法は使えません。ただし単譜表の楽譜であれば、小節途中に挿入した縦線をインスペクタでリピート線に変更できるため、リピート線を含む譜例でもこの手法が使えます。
 MuseScore3ではリピート線や様々な小節線を、パレットから小節の途中の拍に挿入できるので、この手法を使うことができます。ただ、なぜかMuseScore3は小節途中に挿入した小節線をインスペクタで種類を変えることができないようです。

 このように段全体を単一の小節にできない場合でも、部分的に複数の小節を単一の小節でまとめることで、音符間隔を揃えるための作業を多少減らすことができます。右の譜例では単一の小節で表現した右側3小節に合わせて左側2小節を、第二回での機能を使って手動で調節すると良いでしょう。

 さて次回はMuseScore3におけるこの手法の効果について書きたいと思っています。お楽しみに。


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連載「MuseScoreの音符間隔の仕様と有効な手法2」

第二回 「音符間隔の調整方法」
 MuseScoreでは、音符間隔を調節するのに使用される機能が2種類あります。「小節幅の伸縮」と「割振り」です。第二回では、MuseScoreの音符間隔を調節する機能が如何なるものかを紹介していきます。

小節幅の伸縮
 MuseScoreでは各小節の小節幅をそれぞれ伸縮させることができます。MuseScoreは小節内の音符や記号によって小節幅が自動で伸縮する仕様のため、「小節幅の伸縮」の機能は、MuseScoreのスペーシング調整を代表する機能の一つです。

・小節幅の伸縮の方法
 MuseScoreの小節の上で右クリックすると小節のプロパティがあります。小節のプロパティを開くと「その他」の項目に「小節幅の伸縮」があります。デフォルトでは1.00となっていますが、この数値は相対的なものです。この値を小さくすれば小節幅を狭められ、大きくすれば、広げることができます。またこの値は、譜面上の小節を選択した状態で、「Shift + { or } 」で増減させることができます。

割振り
 MuseScoreには個別の音符に対して「割振り」という前後の間隔の値が設定されています。この「割振り」を調節することで、音符間隔を調節することができます。

・割振りの調節方法
 間隔を調節したい音符または休符を選択すると、インスペクタに「割振り」の項目が表れます。そこで「前の間隔/後の間隔」の数値を弄ることで割振りを調節できます。

・割振りの挙動
 MuseScoreの割振りには2つの異なる挙動が含まれています。「小節全体の幅を伸縮させる挙動」と、「個別の音符の前後間隔を伸縮させる挙動」です。

 「小節全体の幅を伸縮させる挙動」は、「小節幅の伸縮」とほぼ同様の挙動を示します。小節の中の一つの音符の「前の間隔/後の間隔」を弄っても、個別の音符の前後間隔ではなく小節全体の幅が伸縮する挙動です。

 「個別の音符の前後間隔を伸縮させる挙動」は、音符の前後のスペースを調節します。MuseScoreはデフォルトでは、臨時記号や符尾、加線等によって、音符の前後にスペースが加えられています。割振りの「前の間隔/後の間隔」を調節することで、そのスペースの調節することができます。

 この異なる2つの挙動は、割振りの一定の数値までは、「小節全体の幅を伸縮させる挙動」が優先的にあらわれ、一定の数値を超えると「個別の音符の前後間隔を伸縮させる挙動」が顕現します。

・割振りの原理
 さてこれらの異なる挙動は、私は「素の音符間隔」と「加算されたスペース」という2つの概念を用いて説明します。

 MuseScoreは「素の音符間隔」に対して、臨時記号や符尾、音部記号、歌詞、アルペジオ等によって、個別の音符に対しスペースが加算されます。割振りの「前の間隔/後の間隔」は厳密には、この「加算されたスペース」の値を調節する機能です。従って「素の音符間隔」を個別に狭めることはできません。MuseScore2 (*) で、臨時記号を付けた音符と何も記号の付いていない音符で、割振りの「前の間隔」をマイナスにしてみてください。臨時記号を付けた音符では「前の間隔」をマイナスすると、前の音符との間隔が狭まるか小節幅が狭まりますが、何も付いていない音符では「前の間隔」をマイナスにしても何も変化が無いはずです。このように、「割振り」では、「加算されたスペース」が0の箇所を狭めることはできません。

*MuseScore3では、割振りの「前の間隔/後の間隔」があろうことか「前の間隔」に統合されているため、「前の間隔」の挙動がMuseScore2とは異なります。

・割振りの「小節全体の幅を伸縮させる挙動」の仕組み
 割振りは「加算されたスペース」を伸縮させる機能ですが、この「加算されたスペース」は、小節幅を広げられる余地がある場合には、音符の前後の間隔では無く、小節全体の幅を広げてしまいます。割振りで個別の音符に対し「加算されたスペース」を追加していっても、小節幅を広げる余地がある限りは、小節全体の幅が広がってしまうのです。

 割振りの「後の間隔」をマイナスにすると、素の音符間隔であっても小節全体の幅が狭められます。これは恐らく「後の間隔」は「スタイルの設定」の「小節」にあるような「スペース(1=狭い)」や「最小音符間隔」等の項目が示すパラメータに作用するのかもしれません。


・割振りの問題点
 「割振り」自体は、音符の前後の付随する「加算されたスペース」を調節する機能で、本来は音符の前後間隔を個別に調節できるべきです。しかし、MuseScoreは「加算されたスペース」を小節幅を広げて解消することを優先してしまうために、「割振り」を弄っても小節全体の幅を伸縮させてしまう挙動になってしまいます。
MuseScore2で、割振り「後の間隔」を伸縮させた時の挙動
 このような割振りの挙動で、個別の音符間隔を調節することは非常に難しいのです。

MuseScoreの音符間隔に対するこれらの機能の限界
 第一回では、MuseScoreのデフォルトの音符間隔は、小節内では揃っているのに対し、小節外では揃わなくなることを説明しました。また音符間隔の比率が、小節を構成する音符の種類によって変化するために、小節幅を調節するだけでは音符間隔を揃えられないことを指摘しました。第二回ではMuseScoreの音符間隔の調節に関わる機能を解説しました。
 さて、これらの機能で音符間隔を整えるのは些か不毛だとは思いませんか。小節毎に音符間隔の比率が異なるために、小節幅を伸縮させるだけでは音符間隔は揃いません。この場合「小節幅の伸縮」では解決せず、個別の音符間隔に関する機能である「割振り」であっても、音符間隔を個別に伸縮させる挙動が顕現する前に、小節幅全体を伸縮させてしまいます。
 第三回では、MuseScoreのある性質を利用して、音符間隔を無調整のまま全て揃える方法を解説します。


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 MuseScoreの音符間隔は、通常の使い方ではデフォルトではあまり統一されていません。殆どの場合、小節毎に異なった音符間隔になってしまいます。しかしMuseScoreには音符間隔の調節に使える機能がいくつかあり、またある仕様を利用すると整った音符間隔を実現することが可能です。

 今回は、MuseScoreの音符間隔の仕様を解説しながら、音符間隔の調整方法を全て伝授したいと思います。


―目次―
第一回 「MuseScoreの音符間隔の仕様」
第二回 「音符間隔の調整方法」
第三回 「音符間隔を無調整で揃える新手法」
第四回 「一段一小節法とMuseScore3」


第一回 「MuseScoreの音符間隔の仕様」

音符のスペーシングのあり方
 さて、MuseScoreの音符間隔の仕様を解説する前に、私の考える、あるべき音符のスペーシングの原則的なあり方について、共有しておく必要があります。

・小節幅は均等にしない
 段の各小節の中身が同じでない限りは、基本的には小節幅は均等にはしません。細かい音符の多い小節は幅が広く、全音符の小節は幅が狭くなります。
 さて、細かい音符で小節幅が広くなるということは、音符の間隔は音符の長さとは比例していないということを示します。つまり二倍の長さの音符は、二倍の間隔を持つのではなく、だいたい1.5倍前後程度の間隔になります。小節を構成する音符の数と種類に応じて、小節幅が結果として伸縮するのです。
 小節幅が異なっていても、同じ長さの音符の間隔は等しく保たれることに注意してください。小節幅は無闇に伸縮されるのではなく、音符間隔の比率によって小節幅が自ずと定まるのです。つまり、小節幅が音符の密度によって伸縮しても、段の中において同じ長さの音符の間隔が揃っていることが、浄書ソフトが実装すべき音符のスペーシングのあり方です。

・スペーシング比率
 音符間隔は固有の比率に基づいて決められるべきです。ここでは、音符間隔を定める一つの指標として「スペーシング比率」という概念を用います。スペーシング比率は、音価が2:1の音符において、楽譜上の間隔がn:1となるように音符間隔を定めます。このnの値がスペーシング比率です。ちなみに浄書ソフトDoricoでは、右図のようにこの指標に則って音符間隔が定められています。今回の記事では、MuseScoreの音符間隔の仕様を分析する指標として「スペーシング比率」を用いますが、スペーシング比率が一定でなくても、音符間隔の比率が固有の場合もあります。あくまで一つの指標です。



MuseScoreの音符間隔
 MuseScoreの音符間隔は、「素の音符間隔」と、臨時記号や加線、音部記号などの「加算されたスペース」によって小節毎に決定されます。またそれぞれの小節が独自に伸縮します。


・素の音符間隔
 「素の音符間隔」とは、ここでは純粋に音価要素によってのみ決定される音符間隔を表します。通常、楽譜の音符間隔には臨時記号や加線、符尾などによって部分的にスペースが加算されていますが、これらの「加算されたスペース」を除いたものが「素の音符間隔」です。

・小節の中の音符間隔
 MuseScoreでは、「素の音符間隔」の同じ長さの音符間隔は、小節内では全て揃っています。臨時記号や符尾、タイなどによる「加算されたスペース」によって、デフォルトでは同じ長さの音符でも部分的に間隔が異なることがありますが、「加算されたスペース」を「割振り」で取り除くとMuseScoreの「素の音符間隔」とすることができます。この「素の音符間隔」は小節内では全て揃っています。

・変化するスペーシング比率
 MuseScoreの「素の音符間隔」における、異なる音価の音符間隔の比率は一定ではありません。小節を構成する音価要素の種類によって、その比率は変動します。特に、画像の二分音符/四分音符は2,3,4小節にありますが、その比率は小節毎に異なっていることが分かります。このように異なる小節で同じ2種類の音符間隔の比率が一定ではない仕様では、小節幅を伸縮させても音符間隔を揃えることは不可能です。
 ※画像で示したスペーシング比率は、音符間隔の比率を定める指標の一つに過ぎません。この計算方法によるスペーシング比率が一定であることが、音符間隔を揃えるのに有効だとしても、必ずしも満たす必要はありません。小節内でスペーシング比率が変動しても、小節外で同じ割合で変動するならば、音符間隔は一定になるでしょう。しかしMuseScoreの場合は画像の2,3,4小節の二分音符/四分音符の関係のように、その変動の割合は一定ではありません。このために、MuseScoreは小節外では、異なる音符の間隔の関係性が一定には保たれないことわかります。
 さて小節内でのスペーシング比率の変動に注目すると、長い音符ではスペーシング比率が小さく、短い小さい音符ではスペーシング比率が大きくなっていることが分かります。小節内での数値の変動は特に問題ではありませんが、スペーシング比率が固定の音符配列と比べると、MuseScoreでは長い音符の間隔が狭めに配置されるように感じるでしょう。

・伸縮する小節
 MuseScoreの小節幅は、小節内の音符や記号の密度によって、自動で伸縮します。諸記号による「加算されたスペース」は個別の音符間隔を広げることよりも、小節全体を伸縮させることが優先されます。
 各小節が小節内の諸要素によってそれぞれ伸縮するMuseScoreの仕様では、水平方向のスペーシングが音価基準で決められるとは言い難く、小節毎にスペーシングが決定されると言えます。

まとめ
 MuseScoreは小節内では、同種の音価による間隔は揃っていますが、小節外では揃わない仕様と言えます。小節が小節外の音符を考慮せずに自動で独自に伸縮する仕様によって、デフォルトでは音符間隔は揃いません。また、スペーシング比率が小節を構成する音価要素の種類によって変動する仕様によって、小節の内と外では音符間隔の比率が同一ではないので、小節幅を手動で伸縮させるだけでは音符間隔が揃わないという問題があります。
 第二回では、MuseScoreが水平方向のスペーシングを調整するのにどんな機能を用意しているか、解説したいと思います。
第一回  第二回

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