2021年3月17日水曜日

Behind Barsのリピート線は主流のスタイルではない

 以前私は「MuseScore3のリピート線の位置について」という記事にて、E. Gouldが記したBehind Barsでのリピート線のルールは、出版譜における一般的なルールとは異なることを、IMSLPから得られたベートーヴェンのOp.111の各社譜例を比較することで、指摘しました。今回は、それに付け加え、ピアノ演奏者なら一度は練習に用いたであろうブルグミュラーの「25の練習曲」Op.100の譜例を、IMSLPの各出版社で比較することで、改めてBehind Barsのリピート線は一般的ではないことを示します。

今回用いるブルグミュラー「25の練習曲」Op.100の譜例は全てIMSLPのこちらのページより

1. Schott社, 1852年版(リプリント), p.12

2. G. Schirmer社, Schirmer's Library of Musical Classics, Vol.500, 1903年版, p.12

3. C.F. Peters社, 1903年頃版(1950年以降の再版), p.14

4. Allan & Co.社, 1920年頃版, p.13

 以上の譜例では全て、双方向のリピート線の前後に音部記号が置かれていることが分かります。Behind Barsのように双方向のリピート線の間に音部記号が置かれているものはありませんでした。すなわちBehind Barsには則っていないということです。このことから、Behind Barsのリピート線のスタイルは出版譜において少数派であることが十分に推察できます。

 もちろん、前回の比較ではBehind Barsと同じリピート線だったものが、一社あったことから、一つの正統なルールではあります。しかし主流ではありません。これを浄書ソフトの主軸として採用することは、明らかに間違った判断だと私は思います。

 MuseScore3以降では、MuseScore2までの一般的なリピート線のスタイルから、Behind Barsのリピート線の仕様に変更されました。従来のリピート線のスタイルをMuseScore3で再現する機能はありません。手間を掛ければ書けないことはありませんが、実質的に一般的なリピート線のスタイルは排除されてしまいました。Doricoにおいてもリピート線はBehind Barsに則っており、一般的なスタイルはサポートされていません。浄書ソフトが浄書のルールを定めてしまうことは、浄書流儀という様々なスタイルが存在する浄書の文化を破壊してしまうのではないでしょうか。「記譜・浄書のあるべき姿」に固執して、スタイルを限定してはなりません。ましてや、歴史的にも一般的なスタイルを排除することはあってはならないことです。浄書ソフトが楽譜浄書のツールとして無くてはならない今だからこそ、浄書ソフトが今後の浄書文化の担い手として、その仕様決定には責任があると思います。「記譜・浄書の正しさ」を浄書ソフト側が一方的に決めるのは傲慢な行為だと言えるでしょう。

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