2019年11月7日木曜日

連載「MuseScoreの音符間隔の仕様と有効な手法1」

 MuseScoreの音符間隔は、通常の使い方ではデフォルトではあまり統一されていません。殆どの場合、小節毎に異なった音符間隔になってしまいます。しかしMuseScoreには音符間隔の調節に使える機能がいくつかあり、またある仕様を利用すると整った音符間隔を実現することが可能です。

 今回は、MuseScoreの音符間隔の仕様を解説しながら、音符間隔の調整方法を全て伝授したいと思います。


―目次―
第一回 「MuseScoreの音符間隔の仕様」
第二回 「音符間隔の調整方法」
第三回 「音符間隔を無調整で揃える新手法」
第四回 「一段一小節法とMuseScore3」


第一回 「MuseScoreの音符間隔の仕様」

音符のスペーシングのあり方
 さて、MuseScoreの音符間隔の仕様を解説する前に、私の考える、あるべき音符のスペーシングの原則的なあり方について、共有しておく必要があります。

・小節幅は均等にしない
 段の各小節の中身が同じでない限りは、基本的には小節幅は均等にはしません。細かい音符の多い小節は幅が広く、全音符の小節は幅が狭くなります。
 さて、細かい音符で小節幅が広くなるということは、音符の間隔は音符の長さとは比例していないということを示します。つまり二倍の長さの音符は、二倍の間隔を持つのではなく、だいたい1.5倍前後程度の間隔になります。小節を構成する音符の数と種類に応じて、小節幅が結果として伸縮するのです。
 小節幅が異なっていても、同じ長さの音符の間隔は等しく保たれることに注意してください。小節幅は無闇に伸縮されるのではなく、音符間隔の比率によって小節幅が自ずと定まるのです。つまり、小節幅が音符の密度によって伸縮しても、段の中において同じ長さの音符の間隔が揃っていることが、浄書ソフトが実装すべき音符のスペーシングのあり方です。

・スペーシング比率
 音符間隔は固有の比率に基づいて決められるべきです。ここでは、音符間隔を定める一つの指標として「スペーシング比率」という概念を用います。スペーシング比率は、音価が2:1の音符において、楽譜上の間隔がn:1となるように音符間隔を定めます。このnの値がスペーシング比率です。ちなみに浄書ソフトDoricoでは、右図のようにこの指標に則って音符間隔が定められています。今回の記事では、MuseScoreの音符間隔の仕様を分析する指標として「スペーシング比率」を用いますが、スペーシング比率が一定でなくても、音符間隔の比率が固有の場合もあります。あくまで一つの指標です。



MuseScoreの音符間隔
 MuseScoreの音符間隔は、「素の音符間隔」と、臨時記号や加線、音部記号などの「加算されたスペース」によって小節毎に決定されます。またそれぞれの小節が独自に伸縮します。


・素の音符間隔
 「素の音符間隔」とは、ここでは純粋に音価要素によってのみ決定される音符間隔を表します。通常、楽譜の音符間隔には臨時記号や加線、符尾などによって部分的にスペースが加算されていますが、これらの「加算されたスペース」を除いたものが「素の音符間隔」です。

・小節の中の音符間隔
 MuseScoreでは、「素の音符間隔」の同じ長さの音符間隔は、小節内では全て揃っています。臨時記号や符尾、タイなどによる「加算されたスペース」によって、デフォルトでは同じ長さの音符でも部分的に間隔が異なることがありますが、「加算されたスペース」を「割振り」で取り除くとMuseScoreの「素の音符間隔」とすることができます。この「素の音符間隔」は小節内では全て揃っています。

・変化するスペーシング比率
 MuseScoreの「素の音符間隔」における、異なる音価の音符間隔の比率は一定ではありません。小節を構成する音価要素の種類によって、その比率は変動します。特に、画像の二分音符/四分音符は2,3,4小節にありますが、その比率は小節毎に異なっていることが分かります。このように異なる小節で同じ2種類の音符間隔の比率が一定ではない仕様では、小節幅を伸縮させても音符間隔を揃えることは不可能です。
 ※画像で示したスペーシング比率は、音符間隔の比率を定める指標の一つに過ぎません。この計算方法によるスペーシング比率が一定であることが、音符間隔を揃えるのに有効だとしても、必ずしも満たす必要はありません。小節内でスペーシング比率が変動しても、小節外で同じ割合で変動するならば、音符間隔は一定になるでしょう。しかしMuseScoreの場合は画像の2,3,4小節の二分音符/四分音符の関係のように、その変動の割合は一定ではありません。このために、MuseScoreは小節外では、異なる音符の間隔の関係性が一定には保たれないことわかります。
 さて小節内でのスペーシング比率の変動に注目すると、長い音符ではスペーシング比率が小さく、短い小さい音符ではスペーシング比率が大きくなっていることが分かります。小節内での数値の変動は特に問題ではありませんが、スペーシング比率が固定の音符配列と比べると、MuseScoreでは長い音符の間隔が狭めに配置されるように感じるでしょう。

・伸縮する小節
 MuseScoreの小節幅は、小節内の音符や記号の密度によって、自動で伸縮します。諸記号による「加算されたスペース」は個別の音符間隔を広げることよりも、小節全体を伸縮させることが優先されます。
 各小節が小節内の諸要素によってそれぞれ伸縮するMuseScoreの仕様では、水平方向のスペーシングが音価基準で決められるとは言い難く、小節毎にスペーシングが決定されると言えます。

まとめ
 MuseScoreは小節内では、同種の音価による間隔は揃っていますが、小節外では揃わない仕様と言えます。小節が小節外の音符を考慮せずに自動で独自に伸縮する仕様によって、デフォルトでは音符間隔は揃いません。また、スペーシング比率が小節を構成する音価要素の種類によって変動する仕様によって、小節の内と外では音符間隔の比率が同一ではないので、小節幅を手動で伸縮させるだけでは音符間隔が揃わないという問題があります。
 第二回では、MuseScoreが水平方向のスペーシングを調整するのにどんな機能を用意しているか、解説したいと思います。
第一回  第二回

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