2018年12月26日水曜日

MuseScore3の新機能

MuseScore3が正式リリースされました。
https://musescore.org/ja/node/280565

 MuseScore3はMuseScore2を礎にしていろいろな機能を盛り込んだソフトとなっています。新たな機能によって使い勝手が変わる部分もあります。ここではMuseScore3で新しく追加された機能をいくつか紹介したいと思います。

Automatic Placement(自動配置)
 記号と記号の接触を避けるために、自動的に譜表の間隔や音符の間隔を広げたり、記号を譜表のより外側に自動的に配置する機能です。諸記号のインスペクタの一項目にAutomatic Placement(自動配置)があり、デフォルトで全ての記号でこれが有効になっています。

 一見浄書の手間を減らしてくれる便利な機能のように思えますが、私は楽譜の中の全ての要素を100%意図的に配置したいので、自動的に記号が配置されたり、譜表の間隔が広げられるのは、非常に困ります。



Stacking Order(重ね順)
 これは楽譜上で諸記号の配置の「重ね順」を指定することが出来る機能です。これもインスペクタに項目があります。この値を大きくすればより手前に、小さくすればより奥に重ね順を決めることができます。この機能を実際に使う人はあまりいないかもしれませんが、かなり便利な機能です。例えば、拍子記号を跨ぐタイを途中で切ったりする譜面がこれでMuseScore2より簡単に書くことができます。白い■を譜面上に入れ、重ね順の値を、拍子記号>五線>白い■>タイ、にすれば、画像のようにすることが出来ます。(MuseScore2でもテキストの種類の違いでStacking Orderの既定値が異なるので、だいたいのことは出来ます。)
 ただし、現時点で音符の符幹はStacking Orderの値を変えても保存することができません。また符幹は自動配置をオフにしても譜面上に反映されません。

Staff type change(譜表の途中変更)
 これは楽譜の途中で譜表のタイプを変更することが出来る機能です。これによって、例えば譜線の数を途中で5線から1線に変えることとかが出来ます。これはパレットの「テキスト」のところにあります。


Staff spacer fixed down
 新しいスペーサーで、これを使うことで譜表の間隔を強制的に狭めることができます。Automatic Placementの影響を受けずに譜表の間隔を固定したい場合や狭めたい時に使うといいでしょう。これはパレットの「区切りとスペーサー」のところにあります。

Don't break
 新しい区切りのツールで、これは隣り合う2小節を強制的に同じ段に配置させることが出来ます。但し私にとってはこの機能の必要性を殆ど感じていません。段区切り(System break)を使って段末の小節を指定していけば、恐らくこの機能を使う場面は無いような気がします。(MuseScore3.1時点で、この区切りは廃止されていました)

符幹の長さの項目がインスペクタに導入
 MuseScore2では符幹の長さはインスペクタに項目がありませんでした。MuseScore2では符幹の長さを個別に調節したときに、インスペクタに項目が無いためデフォルトの長さが分からなくなってしまうこともあります。私はMuseScore2で符幹を弄った時は、非表示のテキストでどのぐらい弄ったかを譜面上にメモっていましたが、MuseScore3ではインスペクタに項目があるため、その必要は無くなりました。

連符の括弧の編集
 MuseScore2では連符の括弧の線の太さやフックの長さを設定することが出来ませんでしたが、MuseScore3ではそれが可能になりました。スタイルの編集のところ設定項目があります。
 MuseScoreのデフォルトの設定ではフックが比較的長いので、連符の括弧が結構なスペースを取ってしまいました。これが設定できるようになったので、よりすっきりした括弧が書けるようになりました。

System Divider 


 スタイルの編集でSystem Dividerが追加されました。スタイルの編集の「段」のところから、楽譜にSystem Dviderを表示させることが出来ます。


幅の広い破線の間隔が調整可能に
 

 MuseScore2にあった幅広の破線が、Custom dashedに進化し、破線の線の長さや破線の間隔が調節できるようになりました。これによってより、オッターヴァの点線をよりそれらしい点線にすることが出来ます。

Bravuraのブレイズ括弧に対応
 MuseScore2では、今までどの記譜フォントを選んでも、ブレイズ括弧は変わりませんでした。MuseScore3ではBravuraを選んだ場合にブレイズ括弧はBravura固有のものが使われるようになりました。

記号の追加
 MuseScore3では「<>」のアクセントが追加されたり、新たな音部記号が追加されたりして、記号の収録数が増えました。

2018年12月21日金曜日

MuseScore3の最大の欠点

 MuseScore3のβ版が既にリリースされています。MuseScore3はMuseScore2よりも様々な機能が足されていますが、MuseScore2の利点を消してしまっているものもあります。

 MuseScore3では左のような譜例をこのようなスペーシングで書くことが不可能になりました。つまり、同じ拍に異なる音価の連符があるときに、その両方が等しい間隔に並べることです。これが難しくなりました。

 MuseScoreはもとからこれを実現する機能はありません。ローカルレイアウトを使う人もいますが、この場合ローカルレイアウトを使っても、上図のように適切なスペーシングにはなりません。
 私は、上図の左端のスペーシングを実現するために、左図のように非表示の休符を入れてスペーシングを矯正していました。これは現状MuseScore2でこのスペーシングを実現するのに、一番綺麗で最も簡単な方式です。しかしMuseScore3ではこの方法は使うことができません。何故なら、MuseScore3はMuseScore2にあったある特性が失われているからです。

 MuseScore2はこのように、音符の間隔をインスペクタの「割振り」にある「後の間隔」をマイナス値にすれば、ほぼ際限なく音符の間隔を詰めることが出来ます。
 しかしMuseScore3ではいくつかの仕様の変更により、音符の間隔を狭められる限度が出来てしまいました。この変更により、MuseScore2では非表示の休符を入れたとしても、間隔を無限に狭められるために、多くの小節を一段に入れることが出来ます。このテクニックを使ってもレイアウトの自由度が損なわれることはありませんでした。しかしMuseScore3では非表示の休符を入れると、その非表示の休符の間隔を一定以上詰めることが出来ません。そのためこのテクニックを使うと一段にあまり多くの小節を入れることが出来ません。
 私はMuseScore2は詰まったレイアウトになるほど性能が発揮されるソフトだと思います。音符の間隔が無限に詰められる事によって、一段に入れる小節数の上限が必要以上に高いのです。そのため限界まで詰まった楽譜を作る時に最大の性能が発揮されました。
 しかしMuseScore3はその利点を、音符の間隔の必要以上に詰められなくしてしまうことによって、消してしまっています。これはMuseScore2にあった高いレイアウトの自由度が無くなってしまいます。この点においてMuseScore3は劣っていると言えます。

 MuseScore2には高い自由度があり、それによってMuseScoreが持つ数々の不適切なスペーシングの仕様を矯正することが可能でした。しかしそれがMuseScore3には無くなっているので、MuseScore3ではMuseScoreの不適切なスペーシングを直しきれないのです。少なくとも現状ではここに上げた譜例を完璧に仕上げることはMuseScore3では難しくなりました。
 
 私にとって、MuseScore3は浄書出来ない譜例が多くなってしまいました。それらはMuseScore2では浄書が出来たものなのです。

2018年12月9日日曜日

MuseScoreのスペーシングの欠点

 MuseScoreは伝統的に音符のスペーシングに弱いソフトウェアです。今回はMuseScoreのスペーシングに関する欠陥をまとめていきたいと思います。

1, 小節内の音価要素の種類や数によって、小節毎にスペーシングが処理される。

 MuseScoreは小節の中の音符や休符が多ければ小節を広く、少なければ狭くするようになっています。この仕様のおかげで、小節が変われば同じ音価の音符であってもその間隔が違うことがよくあります。しかし私は、同じ段であれば同じ音価の音符休符の間隔は等しくあるべきだと考えています。MuseScoreは根本的にスペーシングの考え方が良くないです。

2, スペーシング比率が小節内の音価要素の種類で変わる。

 スペーシング比率とは、各種類の音符の間隔の比率です。...16分音符,8分音符,4分音符,2分音符...の相対的な間隔の比率です。簡単に言えば4分音符を8分音符のn倍のスペースを設ける時のnの部分ですね。MuseScoreではこの比率が小節内の構成する音符の種類の違いによって、小節毎に変わってしまうようです。図は8分音符を規準に小節幅を整えることで揃えたのですが、16分音符と4分音符の間隔が小節毎に異なっていることがわかります。私は原則一つの段の中で同じ音価の音符の間隔はそれぞれ揃えるべきと考えています。従って、スペーシング比率が小節によってコロコロ変わってしまうのは凄く困ります。これの矯正は結構大変なんですよ。

3, 段始まりの小節が狭くなる。

 MuseScoreは無調整の状態では、段始めの小節が他の小節よりも狭くなることが多いです。MuseScore3βではやや改善されていますが、段始めに拍子記号がある場合若干段始めの小節が狭くなるようです。(MuseScore2は拍子記号の有無に関わらず段始めの小節が狭くなりがちです。)

4, 同拍に異なる連符が交わる時のスペーシングの仕様
 MuseScoreでは同拍に異なる連符が交わる時に、本来短い方の音符は他の音符からスペーシングの干渉を受けるべきでは無いのに関わらず、左の赤枠のように一部の幅が広くなってしまいます。左の赤枠では、三連符が一番小さい音価の音符なのに、八分音符がその下にあることで、広がってしまっています。ここは本来は、青枠のようにスペーシングされるべきです。この場合三連符が一番短い音価ですので、他のより長い音価の音符に影響されるべきではないのです。
 MuseScoreにはローカルレイアウトという機能がありますが、あれは存在しても使い所が無いという意味でゴミと同然の機能なので、あれを使って均等に見える人は眼科にでも行った方がいいです。

5, トレモロのスペーシングの仕様

 MuseScoreでは2音間のトレモロは1/2音価の音符としてスペーシングされます。二分音符のトレモロであれば四分音符2つとしてスペーシングされます。しかし2音間のトレモロの後端の音符は、それを弾くタイミングが楽譜と一致するわけではありません。便宜上トレモロを1/2に分割して始点と終点を記していますが、その終点の記譜上の位置はあまり意味が無いのです。従ってトレモロの終点である2音目のスペーシングは、他の音符を優先すべきです。
 譜例のように、トレモロが小節の最小音価ではなく、トレモロの終点の音符が他の音符の間に配置される場合、MuseScoreでは2音間のトレモロの2音が実際の音符であるようにスペーシングされます。すなわち上の譜例の一小節目は、付点二分音符のトレモロは、付点四分音符2つとしてスペーシングされ、さらに下段に四分音符があることによって、2拍目は八分音符2つ分のスペーシングになっています。しかし、トレモロの終端は2.5拍目に弾くことを示さないため、2拍目を八分音符2つ分のスペーシングにする必要はありません(二小節目のトレモロでない場合は2拍目を八分音符2つ分のスペーシングにするのが正しい)。ここは、3小節目のようにトレモロ後端の音符のスペーシングよりも、下段の四分音符のスペーシングを優先すべきです。但し、4拍目のトレモロは4拍目においてそれが最小音価であるので、トレモロの始点終点の2音のスペーシングを適用させるべきです。従って4小節目のような挙動のスペーシングになるべきです。

2018年12月6日木曜日

連符の括弧の設定

 連符の括弧の位置にはいくつかの流派があります。MuseScoreではデフォルトではこのような位置に括弧が置かれます。この位置に置かれるのは実際の出版譜ではあまりないと思います。

 まず、連符の括弧がどのような位置に置かれるかには何パターンか考えられます。その組み合わせでいくつかの流派に分かれると思います。
 連符の括弧の始点は左図のように、符頭の外側または中心に合わせる場合と、符幹に合わせる場合に分けられます。
 括弧の終点の場合も、符頭の外側または中心に合わせるか、符幹に合わせるパターンの他に、符尾が右に出っ張る時に符尾に合わせたり、符幹と符尾の中間地点に終点を置くパターンも見られます。
 連符の括弧の始点終点をどこに置くかについては、これらのパターンを組み合わせた様々な流派があると思います。



 MuseScoreの仕様上、一番お勧めするのは、原則符頭の外側に括弧の始点終点を合わせる流派です。この方式では符尾の上下に依らず連符の数字の位置が揃うというメリットがあります。私はこの流派で浄書をしています。

 この位置に括弧を置くには、右のように、スタイルの編集の「連符」にある、「音符からの水平距離」の数値を全て0にします。
 また適切なところに置かれるのなら、連符の括弧や数字が五線譜と被らないようにする必要はありません。「譜表を避ける」のチェックボックスは外しておく方が良いでしょう。

 日本の出版譜であれば、おそらく符尾に合わせる流派が多いでしょう。スタイルの設定でこれを設定するには、「符頭の前との間隔」と「符頭の後ろとの間隔」の数値をマイナス値にします。但しこのように設定すると、符尾に括弧を揃えるのが好ましくない場合もあります。そういうところは、個別に連符の括弧の位置を調節する必要があります。



 正直、私は専門家ではないので、プロの方が実際どのようなルールで連符の括弧の位置を定めているかは、分かりませんが、この部分は浄書家によって様々ですので、実際に楽譜を多く観察して、一番良いと思ったものを真似てみると良いでしょう。


浄書雑感6 音友『佐藤慶次郎 ピアノのためのカリグラフィー』

 本記事は、 楽譜組版 Advent Calendar 2023 の22日目の記事です。  音楽之友社から「現代日本の音楽」という楽譜シリーズが出版されています。この楽譜シリーズは日本の現代音楽の楽曲を取り扱っており、"なんかスゴイ"楽譜が沢山あります。そう...