2019年2月20日水曜日

MuseScoreでOpus Metronome Stdを使う


 Opus Metronome StdはSibelius Firstに付属してくるフォントです。Sibelius FirstはSibeliusのフリー版で、Finale NotePadと異なりWindowsとMac両方に対応しています。既にRentaroを使うことでこうした表記が可能である記事を書きましたが、Finale NotePadはMac非対応のため、MacユーザーはRentaroフォントを導入出来ないという問題がありました(NotePadが起動出来なくてもフォントは使えるかもしれませんが、MacのPCにWindows版を無理に入れた時に何が起こるかは知りません)。Sibelius FirstはMacに対応しているので、付属するフォントを使うことでMacユーザーであってもこのようなテンポ表記が可能です。

 Sibelius Firstはこちらより入手できます。
 有料ソフトのフリー版は機能が制限されているので、仮にもフルスペックの浄書ソフトであるMuseScoreに比べると、物足りないと思います。しかし同時に有料ソフトの機能の一部が体験出来るので、あれこれ触ってみると良いでしょう。

 Sibelius Firstをインストールしたら、付属のフォントはもう既に使える状態になっているはずです。MuseScoreを開いて、Opus系列のフォントが入っているか確認しましょう。一部のフォント名が右図のように文字化けしているように見えるかもしれませんが、これは正常です。Opus Metronome Stdは図の青く選択されているところのフォントがそれです。

 Sibeliusで使うのに最適化されているので、MuseScoreでそのフォントを使って記号を書くのは、かなり癖を感じると思います。テキストの編集時に、左下の“α”マークをクリックしてUnicode記号のタブを開き、Basic Latinのところを開くと、使いたい記号を入力することができるでしょう。
 冒頭のテンポ記号は左図のように“q=132 qa z=[qp ]e”と入力されています。


 MuseScoreのテキストでの入力が慣れない場合は、Sibelius Firstを起動してSibelius Firstでテンポ記号を書いてから、それをコピーして貼り付けると楽でしょう。
 Sibelius Firstを開いたら、上の方のテキストタブを開き、スタイルの所の上線付き▼をクリックします。すると右図のようにテキストのスタイルが選べるので、その中から「メトリックモジュレーション」をクリックしましょう。その後譜面上のテキストを入れたい所をクリックすると、テキスト入力モードになります。






 テキストが入力できる状態で、右クリックすると、左図のようにいくつか入力例が出るので、書きたいものを選んでクリックすると、記号を入力することが出来ます。


Sibelius Firstで書けたものをコピーして、MuseScoreに貼り付け、フォントをOpus Metronome Stdに指定すれば、同じ記号をMuseScoreで書くことができます。




 同等のフォントを単体でインストールすれば、実はSibelius Firstを入れなくても同じ表記をMuseScoreで書くことができます。
 “Norfolk”というフォントがSibelius用のフォントとして提供されています。これはBravuraという記譜フォントをSibelius向けに最適化させたフォントです。
 Norfolkはこちらより0円から(任意の金額まで)販売されています。

 Norfolkに付属するNorfolk Metronome Stdの使い方はOpus Metronome Stdと同じです。


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2019年2月18日月曜日

MuseScore3で上下高音部記号で開始する譜面の最初の音部記号を高音部+低音部記号の大譜表にする方法

 MuseScore3で、大譜表の楽譜で最初から上下が高音部記号で開始する譜面を作ろうとすると、強制的に上下が高音部記号になってしまいます。右図の右下のように、高音部+低音部記号で書き始め、拍子記号と1拍目の間に高音部記号を入れることがMuseScore3では出来なくなっています。※MuseScore3.0.2までのver.では不可能でしたが、3.0.3では改善されました(2019/02/28)。


青島広志(2009)『究極の楽典 ―最高の知識を得るために』全音楽譜出版社,p.23
 本来の大譜表は、上下高音部記号で始めるのは間違いで、原則高音部記号と低音部記号で書き始めなければいけません。
 しかし現在では、出版譜でも上下高音部記号で書き始めるということも多く、既にその方式が広く受け入れられています。従って今日ではどちらの方式で書いても構わないでしょう。

 MuseScore3で本来の方式の大譜表を書く場合、以下の方法で無理矢理実現させることが可能です。MuseScore3では1拍目に変更の音部記号を入れることが不可能ですが、1拍目で無ければ変更の音部記号は入れられます。つまり、MuseScoreの1拍目をダミーの拍とし、楽譜上の1拍目を2拍目から書いてしまえば、本来の大譜表を書くことが可能になります。
 まず最初の小節の「小節プロパティ」を開きます。小節上を右クリックして「小節のプロパティ」を開くことが出来ます。小節プロパティの「小節の長さ」の実際の値を、八分音符1つ分多い値にします。4/4拍子なら9/8拍子にすると良いでしょう。

 実際の長さを9/8にしたので、1拍目を八分休符にし、2~9拍目を4/4として使います。2拍目に高音部記号を入れると、最初の音部記号を書き換えないで上下を高音部記号とすることが出来ます。

 ここまでやったら先に楽譜の入力を済ませておいてください。

 1拍目の八分休符は存在しないものとして扱いたいので、インスペクタで非表示にしましょう。またこのままだと最初の音部記号と挿入した音部記号との間が空きすぎるので、八分休符の前の間隔をインスペクタで狭めましょう。

 ここで、間隔が十分に狭められない場合は、ダミーの拍をより小さな音価に変えてみてください。つまり4/4の楽譜を9/8にしたとき不十分であれば、17/16や33/32にしてみてください。


 このようにしてMuseScore3で本来の大譜表の保って書くことが出来ます。


 さてここまではMuseScore3で本来の大譜表を書く方法を書きましたが、MuseScore2ではどうでしょうか。実はMuseScore2の場合は、1拍目に音部記号をそのまま挿入することが可能です。

 え?MuseScore2の方が簡単じゃないかって?

 そうなんです。MuseScore2は上下高音部記号にするのも、上下高音部+低音部記号にして1拍目に高音部記号を入れる本来の記譜も、非常に簡単にできます。この部分において、MuseScore3はMuseScore2より退化してしまいました。残念!

追記(2019/02/28)
 MuseScore3.0.3では、MuseScore2と同様の方法でこの表記が書けるように改善されました。

2019年2月10日日曜日

MuseScore3のリピート線の位置について

 MuseScore3ではリピート線が配置される位置が右図のようにMuseScore2より大きく変わっています。MuseScore3で、MuseScore2のようなリピート線の配置をすることは出来ません。

 果たしてMuseScore3のリピート線の仕様変更は妥当でしょうか。

 どうやらMuseScore3でリピート線の仕様は、Elaine Gould著『Behind Bars』のp.234に書かれているスタイルに拠っているようです(https://musescore.org/en/node/280802#comment-881805)

 MuseScore3の仕様は正しいようですが、果たしてMuseScore2の仕様は間違っていたのでしょうか。私は実のところMuseScore3でのリピート線はかなり違和感を覚えますし、MuseScore2の仕様の方が普通だと思っています。

 そこである楽譜を各出版社別に比較して、どのようにリピート線が置かれているかを、実例を見ることにしました。IMSLPのベートーヴェンのピアノソナタ32番、Op.111のページにある、各出版社と手持ちの楽譜より譜例を抜粋しました。

1. Edward Schuberth & Co.社、1891年版、p.144より(J.G. Cotta社のリプリント)
2. Dover Publications社、1975年版、p.605(Universal Edition社1918年版のリプリント)
3. Edizione Ricordi社、1920年版、p.205より
4. C.F. Peters社、1920年版、p.607より
5. G. Henle Verlag社、1967年版、p.319より
6. 音楽之友社ウィーン原典版、2002年版、p.186より

 この中ではMuseScore3と同じリピート線のスタイルであるのは3番目のEdizione Ricordi社の楽譜だけでした。これらの譜例だけを見ると、MuseScore2のスタイルの方が一般的だと推察されます。もちろんMuseScore3のスタイルも実際の出版された楽譜に存在するとも言えますが、同時にMuseScore2のスタイルが間違っているとは言えないでしょう。むしろ多数派はMuseScore2のスタイルです。

 どちらが正しいかは大事ではありません。MuseScore3は現実に数多く使われてきたスタイルから決別し、むしろ少数派であろうスタイルに敢えて変更してしまったのです。これは全く良い変更ではありません。

 もしMuseScore3が、MuseScore2の従来のスタイルに加えて、新たなスタイルとしてElaine Gould氏の主張するスタイルを、リピート線に追加したのであったならば、両方のスタイルをユーザーが選ぶことが出来る仕様であったならば、それは素晴らしいものになったのでしょう。しかし現実は従来のリピート線のスタイルをMuseScore3は消してしまったのです。

2019年2月4日月曜日

MuseScoreでRentaroフォントを使う

 RentaroフォントはFinaleに付属してくる記譜に使えるフォントです。右図の赤枠の中の記号がRentaroフォントの文字です。このフォントがあれば、こうした表記を簡単に書くことができます。Rentaroフォントは実は現在無料で手に入れることができます。

 Finaleのフリー版であるFinale NotePadをインストールすると、いくつかの記譜フォントが付いてきます。

 Finale NotePadはこちらより入手できます(Macは非対応)。
 Finale NotePadはフルスペックのFinaleに比べると機能が大幅に制限されていて、MuseScoreと比べても楽譜作成用途での実用性は乏しいです。ただ、これをインストールすることで付いてくるFinaleのフォント群は、持っていて損することは無いので、是非入れておくことをオススメします。

 さてFinale NotePadをインストールしたら、もう既にRentaroフォントもパソコンにインストールされています。MuseScoreを開いてテキストフォントの中にRentaroやMaestroが入っているか確かめましょう。

 Rentaroフォントのキー設定は、Finaleのオンライン版ユーザー・マニュアルに記載されています。NotePad 2012のユーザーマニュアル→「機能マニュアル」→「フォントキャラクターセット」→「Rentaroフォント」を開くと、キーと文字の対応が記載されているので、それを見てRentaroフォントを打つと良いでしょう。

 リハーサルマークやテンポをRentaroフォントをメインで使う場合はテキストスタイルの設定でフォントを設定すると便利です。
 テンポの場合、フォントサイズは元の設定の2倍程度、20pt~24ptぐらいにし、ボールド(太字)体にしないようにすると良いでしょう。

 パレットからドラッグして入れたテンポは、文字の音符のフォントがRentaroのものでは無いので、Rentaro由来の音符に打ち直しましょう。またパレットのテンポ記号は“=”の左右に半角スペースがありますが、Rentaroの場合はそれは要らないので、半角スペースは消した方がいいです。

 リハーサルマークの場合も、テンポと同様に、元の設定の2倍程度のフォントサイズにし、ボールド体にしないようにしましょう。また、Rentaroは文字そのものに□が付いているので、「フレーム」のチェックボックスは外しましょう。



 こういった表記をMuseScoreで書くのは、Rentaroフォントを入れるのが一番楽な方法だと思います。フリーで入れられるフォントなので、Finale NotePadを入れてみてはいかがでしょうか。


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Macの使っている人でも同様な表記を書きたい人は是非こちらも参照してください。

浄書雑感6 音友『佐藤慶次郎 ピアノのためのカリグラフィー』

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