2023年1月22日日曜日

「割振り」完全解説

 突然ですが、MuseScoreの音符間隔を調整する機能「割振り」を完全解説します。

 残念ながらMuseScoreの開発陣は「割振り」の機能を理解していないっぽいので、MuseScore 2 という昔のMuseScoreを用いて解説します。

「割振り」は音符間隔の伸縮機能ではない

 「割振り」は音符間隔の伸縮機能ではありません。「加算されたスペース」の調整機能です。「加算されたスペース」というのは、臨時記号などによって音符間隔の前後に足されたスペースのことです。MuseScoreでは音符間隔の各区間をセグメント*と呼称しています。

*日本語訳では「割振り」という意味の通りにくい翻訳になっています。

 「割振り」では音符間隔に追加で足されたスペースのみを調整するため、それら「加算されたスペース」が含まれていない音符間隔を狭めることは出来ません。「加算されたスペース」が含まれない音符間隔のことを「素の音符間隔」と呼びます。

 さてMuseScoreは小節に含まれるスペースの量によって、小節自体が水平スペーシングの整合性を無視して独自に伸縮します。それには「加算された」スペースも含まれます。故に「割振り」の機能には「加算されたスペース」の伸縮挙動の他に、小節全体の伸縮挙動が現れることがあります。つまり個別の音符に対し音符間隔を伸縮させようとしても、条件によっては小節全体が伸縮します。

 この余計な挙動を防ぎ、「割振り」の「加算されたスペース」を伸縮する挙動だけを機能させるには、「一段一小節法」を使います。「一段一小節法」については以下の記事を見てください。


 「一段一小節法」を使った時の「割振り」の挙動は以下の通りです。このように「一段一小節法」を使えば、小節全体の伸縮挙動を回避して「加算されたスペース」が含まれる音符間隔のみを狭めることができます。

MuseScore 2.3.2 で「前の間隔」を減らした時の挙動

MuseScore 2.3.2 で「後の間隔」を減らした時の挙動

 これらの挙動を表にまとめると次のようになります。



一段一小節法アリ

一段一小節法ナシ

前の間隔を増やす

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げている場合

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げていない場合

加算されたスペース無

前の間隔を減らす

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げている場合

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げていない場合

変化なし

×

加算されたスペース無

変化なし

変化なし

後の間隔を増やす

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げている場合

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げていない場合

加算されたスペース無

後の間隔を減らす

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げている場合

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げていない場合

変化なし

×

加算されたスペース無

変化なし

×

○: 個別の音符間隔の伸縮挙動
×: 小節幅の伸縮挙動
△: 小節幅の伸縮挙動の後に個別の音符間隔の伸縮挙動が表れる
変化なし: 音符間隔は変化しない

 このように一段一小節法を使えば、個別の音符間隔の伸縮挙動のみのシンプルな機能として割振りが機能するようになります。また「加算されたスペース」が含まれていないスペースを短縮させることはできないことから、「割振り」の伸縮機能は「加算されたスペース」を伸縮させる機能であることがわかります。

「割振り」で音符間隔を調整するには

 「割振り」では「素の音符間隔」を狭めることは出来ません。「素の音符間隔」を個別に狭めるためには、狭めるところ以外の音符間隔を全て広げることで、相対的に狭めることができます。狭めるところ以外の音符間隔を全て広げるためには、「音価分割テクニック」を用います。これは全ての音符間隔を休符によって等分割する方法です。詳しくは以下の記事を見てください。


 「音価分割テクニック」を用いることで、「加算されたスペース」の含まれないセグメントを作り出すことが出来ます。「加算されたスペース」が含まれるセグメントとそうでないセグメントでは、同じだけスペースを増やそうとしても、異なる「割振り」の数値を用いなければなりませんが、意図的に「加算されたスペース」を含まないセグメントを作り出すことで、同じ数値を「割振り」に用いて同じだけスペースを調整することが出来ます。

「割振り」は音符間隔の伸縮機能という誤解

 MuseScore 3 では「割振り」の仕様が変更されました。MuseScore 3 ではセグメントを伸縮させるのに、音符の前の間隔だけで調節することになりました。
 確かに、音符間隔の伸縮機能であれば、音符の前後2方向共に伸縮させる必要はなく、片側の間隔が調整できれば十分です。しかしながら、音符間隔の調整機能であれば、音符の「前の間隔」ではなく「後の間隔」の方を調節機能として残すべきであり、「前の間隔」に集約したことは理にかなっていません。更にもともとは「加算されたスペース」の調整機能であることを考えれば、音符間隔の伸縮機能として作り変えること自体が間違っています。

 音符間隔の調整機能としてみても、「割振り」の挙動はMuseScore 2 よりも使えない代物になってしまっています。「割振り」のスペースの縮小に下限が設けられ、一定以上数値を下げると却って音符間隔を広げてしまう謎仕様となってしまっています。これにより、「音価分割テクニック」を音符間隔を狭める用途で使うことは難しくなりました。
 当然ですが、MuseScore 2 では「割振り」の間隔の数値を減らし続ければ、間隔がどんどん狭めっていきます。数値を減らした結果、間隔が増えるということは、まずありません。「後の間隔」を減らした時に末尾の小節線よりも後ろに張り出すことで、若干間隔が増えてしまう現象はありますが、末尾の音符と小節線までの間隔が減ったことによる現象ですので、問題ではありません。
 MuseScore 3 では、「割振り」の間隔の数値を一定以上減らすと、逆に間隔が増えてしまいます。意味が分かりませんね。

 MuseScoreには、現時点での最新のMuseScore 4 であっても、「素の音符間隔」を狭める手段がないにも関わらず、個別に音符間隔を狭める調整を必要とする場面は未だ残っています。音符間隔を狭める最も合理的な手段は「音価分割テクニック」でしたが、音符間隔が狭まる度合いが制限されている以上、使える場面も限定される結果になっています。実質的には使えません。

 MuseScore 4 においても「割振り」の機能自体はMuseScore 3 のものをほぼ継承しているので、同じ問題を共有しています。つまりあまり使い物にはならないということです。

結局のところ「割振り」の機能って何なの?

 「割振り」の伸縮機能は、臨時記号などによる「加算されたスペース」の伸縮機能です。間隔を増やせば「加算されたスペース」が増やされ、間隔を減らせば「加算されたスペース」を減らします。「加算されたスペース」が無い場合は、間隔の値を減らしても、間隔は変化しません。しかしながらMuseScoreの小節が独立して伸縮する挙動によって、「割振り」で本来の機能に反して小節全体が伸縮することがあります。こうした挙動は「一段一小節法」で無効化することができます。MuseScore 2 で「一段一小節法」を用いた時の「割振り」の挙動はまさしく「加算されたスペース」の伸縮機能としてのシンプルな挙動のみを示しており、この挙動がおそらく「割振り」の本来の機能だと言えます。

浄書雑感6 音友『佐藤慶次郎 ピアノのためのカリグラフィー』

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