2019年7月26日金曜日

配布スタイルの使い方

前回記事「MuseScore3用汎用スタイルの配布」はこちら

配布スタイルの適用の仕方
 ドキュメントの中にある"MuseScore3"フォルダの中の「スタイル」フォルダに、.mssファイルを入れます。

Windowsの場合は以下のアドレスの場所に入れます。
C:\Users\(アカウント名)\Documents\MuseScore3\スタイル

 スタイルを適用したい楽譜をMuseScore3で開いて、メニューから「フォーマット(F)」→「スタイルの読み込み…」で.mssファイルを読み込みます。

 また、新しく楽譜を作成するときに、常にスタイルを適用することができます。メニューの「編集(E)」→「環境設定…(P)」→「スコア」の中の「既定のファイル」のところで、スタイルを指定することが出来ます。ここで配布したスタイルを指定すると、新規に楽譜を作成する時に自動でそのスタイルが読み込みます。

配布スタイルを調整する
 今回配布したスタイルはテキストフォントを設定していないので、例えば日本語歌詞を入力する場合は、各自でフォントを指定する必要があります。

テキストフォントを変える
 テキストフォントを設定するには、メニューの「フォーマット(F)」→「スタイル…」を開きます。そして各項目の一番下にある「テキストスタイル」を選択します。そこで各項目のテキストスタイルの設定を調節することが出来ます。例えば歌詞のフォントを変えたい場合は、「歌詞の奇数行」を選択し、「テキストスタイルの編集」の領域にある「フォント」を任意のフォントに変えることでフォントを変えることが可能です。

スタイルの設定を弄る
 スタイルの設定はメニューの「フォーマット(F)」→「スタイル…」を開くと、各項目の設定ができます。詳しくは公式のハンドブックを参照してください。MuseScore3のハンドブックは翻訳が進んでいないので、MuseScore2のハンドブックの参照もオススメします。MuseScore3では、一部の設定には自動配置が干渉しているため、設定値を変えても何の効果も無いものがあります。

記譜フォントを変える
 「スタイルの設定」の「スコア」で「音楽記号フォント」と音楽記号の「テキストフォント」を変えることができます。音楽記号フォントを変える時は、必ず「自動でフォントに基づいたスタイルの設定を読み込む」チェックボックスを毎回忘れずに外してください。このチェックボックスがオンになっていると、複数の設定が勝手に不適切な設定値に書き換えられてしまいます。悪魔の所業です。

弄ったスタイルを保存する
 スタイルの設定を自分好みに弄ったら、スタイルを保存しましょう。メニューの「フォーマット(F)」→「スタイルの保存…」で設定したスタイルを保存することができます。私からのお願いですが、改変したスタイルは、元ファイルとは別名で保存してください。

MuseScore3用汎用スタイルの配布

 今回はMuseScore3ユーザー向けに、スタイルの設定を調節したので、設定スタイルを配布したいと思います。

MuseScore3のデフォルトスタイルの問題点
 というのも、MuseScore3はスタイルの設定がデフォルト時には色々と不適切な部分があります。特に、記譜フォントをBravuraやGonvilleに変える時に、自動で不適切極まりない設定に変更する「自動でフォントに基づいたスタイル設定を読み込む」機能が実装されていて、見るに堪えない楽譜が容易に作りやすくなってしまっています。

「自動でフォントに基づいたスタイル設定を読み込む」の問題点
 「フォーマット(F)」→「スタイル…」→「スコア」のところにある、このチェックボックスがオンのまま記譜フォントを変えると、スタイルの設定の諸々の値が勝手に変わってしまいます。しかもその設定値は全く適切ではありません。
 例えば連桁の間隔に注目すると、記譜フォントを変えずにEmmentalerをデフォルトのまま使用する場合は、デフォルトの設定は正しいのですが、「自動でフォントを基づいたスタイル設定を読み込む」状態でBravuraやGonvilleに変えてしまうと、連桁の間隔が狭くなってしまいます。この間隔の出版譜は殆ど見たことがありません。「自動でフォントに基づいたスタイル設定を読み込む」チェックボックスは、毎回「スタイルの設定」を開く度オンになっていますが、記譜フォントを変える時は必ず毎回絶対に忘れずにチェックボックスを外してから記譜フォントを変えてください。

配布するスタイルの特徴
・記譜フォントBravuraに最適化し、主に線の太さや記号間の間隔を微調整しています。Gonvilleの使用は想定していません。
・テキストフォントは一切変更していないので、お好みのフォントに変えて使ってください。特に日本語歌詞などを書く場合は、そのままの状態ではゴシック体で書かれてしまうので、使用用途に応じてフォントを明朝体に変える等してください。
・ドラムの記譜設定は、スタイルの設定とは別項目で、今回の配布ファイルでは何の変更はありません。ドラムには統一した記譜法が無く、また私がドラムには疎い部分があるので、今回はドラムの設定ファイルは配布を見送ります。MuseScoreのドラム記法は、デフォルトでは一般的ではないので、カスタマイズして使用することをお勧めします。

デフォルトと配布スタイルの違い
・付点
 デフォルトでは付点と付点の間隔が近すぎているので、付点の間隔を広げ、なおかつ付点を少し太くしました。
・小節番号
 デフォルトでは小節番号は楽譜の左端に右揃えですが、位置を楽譜の左端に左揃えにした上で更にやや右寄りに配置しました。また斜字体にしました。
・切断された連桁の長さ
 デフォルトでは符頭の幅よりも若干長いのですが、符頭の幅を超えない方がバランスが良いと思うので、切断された連桁を短く設定しました。
・最小のタイの長さ
 MuseScore3はタイの最小の長さが設定されていて、タイの最小長さを下回らないように自動で音符間隔が広げられます。タイの最小の長さはもう少し短くても支障が無いと思われるので、やや短くしました。
・連符の括弧の位置
 連符の括弧の位置を符頭の外側にぴったり揃うように設定しました。
・連符の括弧の高さ
 MuseScore3では連符の括弧の高さが変えられるようになりました。デフォルトでは括弧が邪魔になりやすいので、高さを低く設定しました。
・連符の数字の位置
 MuseScoreではデフォルトでは連符の数字は、五線の中に入らないように設定されています。しかし出版譜の多くは五線の中に連符の数字が入ることを許容してます。そこで、配布スタイルでは五線の中に連符の数字が入ることを許容しています。


・フィンガリング(運指番号)
 太字に設定しました。
・リハーサルマークの枠
 角の丸みを取って枠線を細くしました。

・小譜表の小節線
 デフォルトでは小譜表の小節線は小さいサイズで書かれますが、配布スタイルでは通常の譜表のサイズと同じ大きさの小節線に揃えました。
・調号変更時の♮
 デフォルトではハ長調・イ短調に変わる時のみ調号に♮が配置される設定ですが、前の調号を打ち消す♮を基本的に配置させる設定にしました。


サンプル譜例
 デフォルトの設定と配布スタイルとを譜例で比べるとこんな感じです。下の譜例はスタイルを変えた以外には何の変更をしていません。
 別に配布スタイルを適用したからといって、楽譜が綺麗になるわけではありません。記譜上の慣例を守って楽譜を書き、なおかつ適宜調整し浄書をすることが大事です。
 私が整えると、下のようになります。

配布スタイルの注意点
・スタイル作成時のMuseScoreのバージョンは3.2.3です。MuseScore2には使えません。
・別にこれを使っても楽譜が綺麗に書けるわけではありません。
・テキストフォントは弄っていないので、各自で設定してください。
・ダウンロード時のパスワードは「joshoMS3」です。
・記譜フォントを変える時は「自動でフォントに基づいたスタイル設定を読み込む」チェックボックスを、必ず毎回絶対に忘れずに外してから記譜フォントを変えてください。
スタイルファイル(.mssファイル)の改変はご自由にどうぞ。
改変した.mssファイルは、ファイル名を変えてください。
内容が同一の.mssファイルの再配布は禁止です。

MuseScore3用汎用スタイルの配布リンク
https://ux.getuploader.com/sgeyosP1engraving/download/2

 長すぎたので具体的な配布スタイルの使用方法は次回記事に分けます。

次回記事
MuseScore3用汎用スタイルの使い方

2019年7月18日木曜日

浄書ソフトでのスラーの形

 楽譜浄書ソフトでのスラーは、殆どの浄書ソフトでは3次ベジェ曲線で表現されます。浄書ソフト以前のハンコ浄書や彫版浄書では、スラーは職人の手書きで書かれていました。ペジェ曲線のスラーでは従来の方式のスラーとは形状が大きく異なっていて、コンピュータ浄書の特有の要素です。今回は、浄書ソフトでの3次ベジェ曲線のスラーで、綺麗に描くために注意すべき点を記したいと思います。

必要なのはスラーの始まりと終わりだけである
 楽譜上においてスラーは始点と終点の位置を明示することが最も重要であり、スラーの中間部分はあまり意味を持っていません。楽譜上ではスラーの中間部分は優先度の低い邪魔な部位だと言えます。

スラーの始点と終点は音符の近い位置に
 スラーの始点と終点は音符に近い位置に維持するのが望ましいです。コンピュータ浄書の3次ベジェ曲線によるスラーの場合、スラーの形状に一定の制限があるので、実はこれが難しいのですが……

コンパクトにまとめる
 全ての記号は五線から離れすぎてはいけません。演奏者が見るべき楽譜の範囲は、出来るだけコンパクトであることが望ましいです。スラーも全体が不必要に膨らみすぎているようなものは好ましくありません(個人差はあります)

スラーの真ん中が一番太い
 スラーは先端が細く中央が太い形状になっています。浄書ソフトで書かれるスラーは、形状によってはスラーの最も太い部分が左右に偏ってしまうことがあります。基本的には太い部分が左右に寄っているスラーは美しくありません。MuseScoreのスラーでは、スラーの弧の中央部付近の制御点(右図の赤丸で囲った制御点)が、スラーの中央にあるようにすれば、基本的には綺麗にスラーが書けます。
 さて、伝統的な手作業によるハンコ浄書や彫版浄書のスラー、SCORE(英語wikipedia)のスラーやDoricoの平坦スラー等は、ベジェ曲線では無いので、スラーの膨らむ部分が中央に無くても実は美しく書けます。これらのスラーは3次ベジェ曲線よりも、崩れた形状のスラーが綺麗に見えやすいですが、左右対称の形から可能な限り大きく崩さないのが大事であることは、3次ベジェ曲線でも手書きや平坦スラーでも同じです。

扁平になりすぎない
 コンピュータ浄書の3次ベジェ曲線スラーは、扁平にし過ぎるとあまり綺麗ではありません。ある程度の膨らみは、3次ベジェ曲線のスラーには必要になってきます。

 浄書ソフトでスラーを書く時には、3次ベジェ曲線であることで、どうしてもスラーの形状に制約があります。これらのことを全て守ってスラーを描くのは難しいので、「スラーの最も太い部分を中央に置くこと」を取り敢えず意識してください。左図のようにスラーの弧側中央の制御点が、中央部にあることを守っていれば、大抵の形のスラーはそこそこ綺麗にできるはずです。

浄書雑感6 音友『佐藤慶次郎 ピアノのためのカリグラフィー』

 本記事は、 楽譜組版 Advent Calendar 2023 の22日目の記事です。  音楽之友社から「現代日本の音楽」という楽譜シリーズが出版されています。この楽譜シリーズは日本の現代音楽の楽曲を取り扱っており、"なんかスゴイ"楽譜が沢山あります。そう...