2019年9月13日金曜日

MuseScore3よりもMuseScore2を使う理由。

 MuseScore3は必ずしもMuseScore2より優れているとは言えません。私は楽譜浄書においてはMuseScore3を使うことはありません。

リピート線の無慈悲な仕様変更
 MuseScore3での最も致命的な変更は、リピート線の記譜方式をよりマイナーな方式に変えてしまったことです。この件については以前にこの記事にて既に書きました。MuseScore2とMuseScore3のどちらの方式が間違っている訳ではありません。しかし一方的に少数派の方式に敢えて変更してしまったのは、愚かな判断です。私はMuseScore3のリピート線方式は支持しないので、MuseScore3を使うことはありません。
 またこの変更により、リピート線にバグが生じています。MuseScore3では、右図のようなリピート線は、拍子記号・調号で分割されるようになっています。しかし、一度リピート線に入力した拍子記号・調号を消すと、リピート線は分割されたまま元に戻ることはありません。リピート線を消して再入力しても、分割された状態で入力されてしまいます。「戻る」で拍子記号・調号を入力する前まで戻っても、分割された状態になってしまいます。画像の一番下の状態になったら、その小節そのものを右クリックして「選択した小節を削除」して、新たに小節を挿入するしか方法はありません。

小節幅の伸縮制限
 MuseScoreの各小節は、一定の範囲内で小節幅を変えることが可能です。MuseScoreで「小節のプロパティ」を開くと、「小節幅の伸縮」の項目があります。MuseScore2は「小節幅の伸縮」の値に忠実に小節幅を伸縮させることが可能でした。しかしMuseScore3では小節幅の伸縮に一定の制限が設けられました。
MuseScore3では、0.8以下では数値を変えてもそれ以上狭くならない。
 MuseScore3の場合、「小節幅の伸縮」で小節幅を狭めるとき、「小節幅の伸縮」の値が0.8よりも低い値にしても、小節幅はそれ以上狭めることは出来なくなっています。MuseScore2では数値が0になるまで値に忠実に小節幅を狭めることが可能でした。この変更は一体誰が得をするのでしょうか。「小節幅の伸縮」の機能を使う全ての人は、小節幅を調節したいから弄るのです。このような制限を新たに設けることはユーザーに対する冒涜です。

音符の「割振り」の仕様変更
 MuseScoreで音符間隔を弄る主要な機能の一つに「割振り」があります。これは各音符や休符に対し割り当てられていて、各音符・休符毎に前後間隔を調節することが可能です。さてこの機能は、MuseScore2以前でも複雑怪奇な挙動を示すので、実は使いこなすのは難しいのですが、MuseScore3での変更をお話する前に、MuseScore2での「割振り」の挙動を理解しておく必要があります。
 MuseScore2では、「割振り」には「前の間隔」と「後の間隔」がありました。この2つの間隔は、MuseScore3で「前との間隔」の一つに纏められています。「前の間隔」/「後の間隔」の名称を見ると、一見個別の音符の前後間隔を自在に伸縮できるように見えます。しかし実際はそうではありません。

 この機能には2種類の挙動が含まれており、MuseScoreの"素"の音符間隔に対して「加算されたスペース」を増減させる挙動と、個別の小節全体を「小節幅の伸縮」よりも細かい次元で伸縮させる挙動が、一緒になっています。

 まず、純粋に音符・休符の音価のみによって定められた音符間隔を「素の音符間隔」とここでは表現します。MuseScoreの「割振り」は「素の音符間隔」を弄ることは出来ません。MuseScoreでは、素の音符間隔に対し、臨時記号・加線・符尾・音部記号等によって、スペースが加算されます。「割振り」は、これらの「加算されたスペース」を伸縮させる機能です。従って、「加算されたスペース」が0である、素の音符間隔を個別に狭めることは出来ません。
 また一定の条件下では、「割振り」は個別の音符間隔の伸縮ではなく、小節幅の伸縮と同等な挙動を示します。
 段の水平スペースに余裕がある場合は、MuseScoreは「加算されたスペース」を個別の音符間隔ではなく小節全体の幅を広げるように処理します。従ってこの場合において「加算されたスペース」を「割振り」を用いて削ると、個別の音符間隔ではなく小節全体の幅が狭まります。このように「割振り」は本来の機能に反して小節幅の伸縮にも作用します。
 さて、段の水平スペースに余裕がある場合に「加算されたスペース」を個別の音符間隔ではなく小節全体の幅の伸縮に処理されるMuseScoreの挙動のため、「割振り」の「前の間隔」/「後の間隔」で正の値を用いてスペースを加算する場合は、一定の範囲内では小節幅全体の伸縮に作用し、一定の範囲を超えると個別の音符間隔に作用します。


 またMuseScore2での「後の間隔」は、ここで定義する「素の音符間隔」状態において、負の値を用いると小節幅全体を狭める挙動を示します。なお「前の間隔」は「素の音符間隔」状態では、負の値を用いても音符間隔・小節幅には影響をもたらしません。恐らく「後の間隔」は「スタイルの設定」の「小節」にあるような「スペース(1=狭い)」や「最小音符間隔」等の項目が示すパラメータに作用するのかもしれません。

MuseScore3の「割振り」の挙動
 MuseScore3で「前との間隔」に纏められたことで、一見UIは単純化されたように見えますが、実際の挙動は更に複雑になりました。一定の数値以下では何故か間隔が広がるので、十分に音符間隔を狭めることは出来なくなりました。

 この変更によって、MuseScore3では音符のスペーシングの調整が難しくなりました。特定の譜例においてはMuseScore3で浄書をするのは非現実的だと言えます。MuseScore2の「割振り」の「後の間隔」は、小節幅を伸縮させる挙動において、実質的に制限がありませんでした。そのため、未使用の声部に休符を入れるテクニックと併用することで、特定の音符間隔を広げたり狭めたりすることが可能でした。これはMuseScore2が音符間隔においていかなる要求も実現できる特性です。特定の音符間隔を伸縮できないソフトはもはや浄書ソフトではありません。現状MuseScore3は浄書ソフトではありません。


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