ようこそHashibosoPのブログへ

はじめに
 はじめましてHashibosoPです。このブログでは、MuseScoreで楽譜を作る時にどうしたら綺麗に楽譜浄書できるか、について主に扱います。私がMuseScoreを使い始めたのは2008年頃ぐらいですが、楽譜浄書を意識して楽譜浄書ソフトを使い始めたのは2015年頃のMuseScore 2のβ版が出た頃です。以来現在にいたるまでMuseScore 2を楽譜浄書に用いています。

楽譜浄書とは
 楽譜浄書とは、複製される前提のフォーマットで、多くの人に見てもらうために綺麗に整える作業のことを指します。現在は楽譜浄書ソフトを使って楽譜を手軽に作ることができますが、浄書ソフトが登場する以前は、職人の手作業で出版譜の版が作られていました。

 ヨーロッパでは一枚の金属板を彫って、それを刷ることによって出版譜が作られてきました(彫版浄書)。このことから楽譜浄書のことを英語では"Music engraving"と言います。詳しくは楽譜出版社であるヘンレ社のホームページ「楽譜の彫版/レイアウト」で紹介されています。
ヨーロッパでの彫版浄書で彫られた金属板とその道具
 日本では一枚の紙に製図用の器具を用いて線を引いたり、音符や音楽記号のハンコを五線の上に押すことで、出版譜が作られてきました。日本でのこのような楽譜浄書の手法は「ハンコ浄書」と呼ばれています。詳しくは日本楽譜出版社の「ハンコ浄書の世界」でその手法が紹介されています。
ハンコ浄書で作られた出版譜の一例
 現代では浄書ソフトを使ってコンピュータで楽譜が作られるようになりました。しかしコンピュータが家庭に普及するようになったのは1990年代以降であり、今の浄書ソフトの代表例のFinaleが登場したのが1989年であるように、楽譜浄書のコンピュータ化も1990年代以降に急速に広まりました。逆に言えば、1980年代までの出版譜は、職人による手作業での彫版浄書やハンコ浄書が主流だったのです。現代では彫版浄書やハンコ浄書によって新たに楽譜が作られることは無くなり、新たに出版される譜面のほぼ全てが浄書ソフトによって浄書されるようになりました。しかしながら1980年代までの出版譜は、版が改められない限りは現在でも一般に市場に流通しており、入手が可能です。

 現代では浄書ソフトが広く使われるようになりましたが、ただ音符を入力しただけでは、浄書の品質では到底出版譜に及ぶものにはなりません。浄書ソフトを使う場合でも楽譜浄書での考え方とそれの実現の仕方を知っていなければ、浄書をすることは難しいでしょう。

MuseScore
 まず最初に言っておきますが、残念ながらMuseScoreは楽譜浄書には向いていません。現実に楽譜出版ではほとんどの楽譜でFinaleが浄書に使われています。しかしMuseScoreでも本格的な楽譜浄書は実際可能です。MuseScoreは一応、浄書ソフトとしては他の有償の主要浄書ソフトに劣るとは言えない程度には、多彩な機能を備えています。
 これが私の浄書サンプルです。私がMuseScoreを使うとこんな感じで楽譜浄書ができます。これを見た時に瞬時にMuseScoreだと分かる人は、MuseScoreをかなり知っている人だといえるでしょう。普通はMuseScoreを使っても、このように浄書をする人はほとんどいません。このブログでは、私がMuseScoreを使う上での浄書の方法やノウハウを発信しています。

MuseScoreでの浄書をする上でのマニュアル
 MuseScoreで楽譜浄書をする上での必要な知識や、楽譜浄書のやり方をまとめています。
MuseScoreでの楽譜浄書の実践順序
 MuseScoreの楽譜を浄書する具体的な手順を、実際の譜例から紹介しています。
HashibosoPの浄書サンプル
 MuseScoreの楽譜浄書の見本を置いています。

「流儀」という言葉
 楽譜浄書を実践する時に、一つ心掛けて欲しいことがあります。浄書をやっていくと、記号を配置する上での他の記号との距離や、段の間隔、音符の配置や連桁の傾きなど、ルールが分からないと感じることが多く発生します。これは浄書のルールが一つに定まらないからです。浄書のルールは浄書家によって微妙に異なってきます。それ故に成文化されていない部分も大きいです。浄書はルールというより「流儀」です。今後浄書の決まり事について調べたりする時には、その決まり事が「流儀」の一つに過ぎないことは念頭に置いておいてください。これはこのブログを見る時でも同じです。ここに書いてあることは、浄書の一つのルールに過ぎないということであり、Hashiboso流という一つの流儀なのです。ここに書いてあることは絶対ではありません。相対的に私が良いと主体的に判断して浄書のルールを取捨選択しています。なぜなら、ルールを自分で決めないと浄書できないからです。ここに書いてあるのはその取捨選択の一つの結果に過ぎません。浄書をルールを調べる時には、それが客観的なルールなのか主観的な取捨選択の結果なのかは意識しておくべきです。そしてそれが客観的なルールかを確かめるには、実際の出版譜を数多く観察しなければ判断できません。浄書のルールだとされている事柄は鵜呑みにするのではなく、一旦筆者の主観であると捉え、実際の出版譜で確かめると良いでしょう。もっとも、実際の出版譜でもルールは多様であり、それ故に「流儀」と表現するわけなのですが。

浄書ソフトあれこれ
 2021年現在、フルスペックの浄書ソフトで主要なものは、Finale, Sibelius, Dorico, LilyPond, MuseScoreが挙げられます。これらの浄書ソフトにはそれぞれ一長一短がありますが、普通の楽譜を書く上ではどのソフトも十分な機能を備えています。楽譜浄書をする上でも、どのソフトも一長一短です。HashibosoPはMuseScoreの他にはDoricoとLilyPondを使ったことがあります。DoricoもLilyPondも優れた浄書ソフトであることは間違いないですが、「MuseScoreよりも優れた浄書をより簡単な手順で実現できる」とは言い切れないというのが私の結論です。結局のところ、楽譜浄書を突き詰めていけば何を使っても時間が掛かります。十分なノウハウがあればMuseScoreでも楽譜浄書ができてしまうのです。ただ、MuseScoreは浄書ソフトとしては楽譜浄書に決して向かないソフトであるのは確かです。私は楽譜浄書でMuseScoreを使うことはお勧めしません。デフォルトの設定に不適切な部分も多ければ、仕様自体が間違っていることもあります。MuseScoreの設計の拙さは確実に楽譜浄書を妨げています。「流儀」に拘らず、手軽に楽譜浄書をやりたいのであれば、MuseScoreではなくDoricoやLilyPondを使うのが良いでしょう。その2つの浄書ソフトは一つのまとまった「流儀」に従い音符や記号が初期状態でほぼ適切に配置されます。時折修正が必要な部分もありますが、手動で修正しても浄書上の大きな破綻は起こりません。デフォルトの出力結果から都合の悪いところだけ修正すればいいのです。ただ、浄書ソフトの採用している「流儀」から外れて、自らが好む「流儀」に合わせようとすると、それらのソフトでも手順が増えて大変になります。そういう意味では、最終的にはどの浄書ソフトもあまり大差はありません。

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