2022年12月19日月曜日

MuseScore 4 のリリースについて

 12月14日、MuseScore 4 が正式にリリースされました。私はもはやMuseScoreのアンチですが、軽く触った所感をお伝えしたいと思います。


性急すぎたリリース

 はっきり言って、MuseScore 4.0 は正式版としてはお粗末な完成度だと思います。実質αテストだと思った方が良いかもしれません。MuseScore 4.0 ではMuseScore 3 系列に実装されている多くの機能が未実装のままです。また実装されている機能も調整が甘く、使い勝手は良くありません。今、MuseScore 4 に移行するのはオススメしません。ver. 4.3ぐらいまでは待った方が良いと思います。

2022/12/19時点ではMuseScore 3 で実装されている多くの機能がMuseScore 4 では実装されていません。

 MuseScore 3 にあったピアノロールエディターすらMuseScore 4.0 では実装されていません。クローズドαテスト版かな?

 あと今回のMuseScore 4 には、どういうわけかは知りませんが、公式からはリリースノートが出されていません。MuseScore 3 の時にはリリースノートがしっかり公開されていましたが、今回のリリースは色々といい加減な気がします。というかリリースノートが無いとこういう記事書くのに困るんだよ。
リリースノートの一覧には何もない
 リリースノートが無いため、今回はMuseScore 4 の新機能や変更点の概略は面倒くさいので書きません。軽く触ってみて気になった点を中心に書きます。

インスペクタからプロパティタブへ

 MuseScore 4 では、MuseScore 2 やMuseScore 3 でのインスペクタの代わりに、プロパティが左側にタブの1つにまとめられています。この配置では、記号や音符に対して調整を加える時にいちいちタブを切り替える必要があるので、個別調整を多用するユーザーにとって不便だと思います。幸いなことにプロパティタブをドラッグすると任意の場所に移動できるので、インスペクタに慣れているユーザーは従来通り右側に配置すると使いやすいでしょう。

連桁の調節が終わってる

 MuseScore 4.0 では、実質的に連桁の微調整は諦めた方が良いです。大きく機能が変わったわけではありませんが、使用感に関してはかなり劣化しました。

矢印キー1回あたりの移動量

 まず矢印キー1回あたりの移動量がMuseScore 3 から変更され、大きく移動するようになりました。これでは正直移動量が大きすぎて、細かい調整には向きません。正直使いにくいです。矢印キー1回あたりの連桁の移動量は、MuseScore 3 までの仕様が最適なものであって、またDoricoですらアプデでMuseScore 3 までの仕様と同じ移動量に最適化されたという事実もあるので、これは単なる改悪だと思います。実際MuseScore 4.0 ではデフォルトの連桁の傾きに対し、矢印キーの操作では移動量が大きすぎるために、手動で連桁を平行にすることはできないぐらいです。これでは連桁の傾きを修正するのに不便です。
 また、矢印キー1回あたりの移動量が変わったのは連桁だけではありません。この変更により記号類の配置を微調整するユーザーにとっては使用感が大きく変わったと感じられるでしょう。移動量が最適でなければ、記号を理想の位置に配置するのに、別の操作方法をも併用しなければ目的を達成できないので、こうした変更は慣れの問題ではないのです。

連桁の傾き1/4未満の調整ができない

 矢印キーでの操作では連桁の傾きを調整しきれないため、プロパティで直接数値を弄って調整することになりますが、こちらも何故か細かい調整が聞かなくなっています。最小の移動量が矢印キーの半分ほどの移動量になっており、それ未満の数値は連桁の配置に反映されないようになってしまっています。一般的な連桁の調整では何とか使える程度ですが、連桁の太さや間隔を変更した場合にはより微細に連桁を調整する必要があるため、こんな仕様では使えません。MuseScore 3 までではしっかり数値が反映されていて、微細な調整が可能だったので、機能が劣化したというほかありません。

扇型連桁と連桁間隔

 MuseScoreには扇型連桁を作るために、連桁の両側の間隔を個別に変更する機能があります。MuseScore 4.0 ではこの機能のUIが変更されました。連桁の片側を8分音符、もう片側を32分音符に段階的に変化するような、扇形連桁を作る場合はわかりやすく手軽になっていますが、両側を弄って連桁そのもの間隔を個別調整したい場合は考慮されていません。

連桁両端の間隔を等しい値にすると、
間隔調整のプロパティは隠される
 MuseScore 4.0 のプロパティで扇形連桁を選択すると、連桁の両端の間隔が強制的に1と0にされる上に、仮に既に両端の間隔を1.3などに設定していた場合も強制的に数値が1と0に上書きされます。また、両端を同じ数値にしている場合は、両端の間隔を調節する部分が隠されてしまうので、あとから調節し直す時には再び扇形連桁のアイコンを選択する必要があります。つまり調整を1からやり直すことになるのです。

連桁の間隔を調整後、
再選択すると数値がリセットされる

 そもそも4.0では扇形連桁を作る場合においても、連桁の間隔を弄っても数値が保持されないという致命的なバグがあります。つまり個別調整は不可能です。


 これらの不適切な変更を考慮すれば、MuseScore 4.0 では連桁を調整することは現実的にはしんどい作業になってしまいました。やらない方が良いですし、連桁を調整する必要があるならMuseScore 4.0 を使うべきではありません。

近くのエレメントに選択を吸われる現象

スラーの調整ポイントの□を選択しても、連桁に選択がいく現象
 MuseScoreでは、これまでも線記号においてはカーソルの当たり判定が大きく、接近した他の要素のカーソル選択に干渉する現象がありました。MuseScore 4.0 は酷いです。明らかに別の記号や編集点を確実に選択しても、他の記号に選択が吸われてしまう現象があります。これでは記号の位置の調整をするときにストレスフルなので、記号の位置調整をMuseScore 4.0 でするのはオススメしませんし、MuseScore 4.0 を使うべきではありません。


手動調整を制限する自動配置機能

 MuseScore 3 で導入された記号類の衝突を自動で避ける自動配置機能は、自動配置というよりも、記号類の衝突を制限する機能です。これは手動調節による記号の衝突を制限する結果となり、手動調節を阻害する要因となっています。MuseScore 4.0 では手動調節の排除の度合いがより強化され、自動配置が有効な場合には、ほぼ手動調節はできません。
MuseScore 4.0 では自動配置は音符間隔調整をも制限する
 MuseScore 4.0 では「加算されたスペース」によって広げられた間隔は、自動配置による制限の対象であり、自動配置を無効にしなければ、狭めることはできません。
MuseScore 3 では自動配置が有効でも間隔は狭められる
 MuseScore 3 では自動配置が有効であっても、「割振り」の「前の間隔」を減らしていけば、「加算されたスペース」分の間隔を狭めることができます。

 自動配置が干渉するスペースを調整するには、自動配置をオフにするほかありませんが、MuseScoreの音符や記号の配置は自動配置機能がすでに前提となっており、自動配置を無効にすると配置が乱れてしまいます。つまり手動調節をするのであれば、自動配置の恩恵はほとんど受けられず、MuseScore 2 よりも酷い状態から全て手動で記号の位置を配置し直すことになります。であれば、MuseScore 2 を使った方が良いでしょう。

重ね順はココ

 MuseScore 3 での数少ない改良点の一つに「重ね順」という機能がありますが、そのUIも変更が加えられ、分かりにくくなっています。
 「編曲」は誤訳ですが、ここで重ね順を変えることができます。

水平スペーシングの改善

 MuseScore 4.0 ではMuseScoreの伝統的な音符間隔配置の欠陥が修正されています。スペーシング比率に基づいて音符間隔が決められるようになりました。これによりデフォルトでは小節ごとに音符間隔が変わる問題が解消されました。また三連符に対する八分音符のような場合でも、短い方の音符間隔を広げずに八分音符が配置されるようになりました。

小節幅の伸縮

 MuseScore 3 では小節幅の伸縮機能が非常に制限されており、使えるものではありませんでしたが、MuseScore 4.0 では一定の改善が行われ、そこそこ機能するようになりました。とは言っても、全体の音符間隔が揃うようになっているので、小節を個別に伸縮させると音符間隔を崩す結果になります。MuseScore 4.0 ではこの機能は使わない方が綺麗な楽譜を作りやすいでしょう。この機能自体もMusScore 2 であればより制限なく使えるのですがね。

VSTに対応

 VSTに対応したのはMuseScore 4 の目玉ですが、ピアノロール機能が削除されている現状では、MuseScoreをDAWとして運用するほどのものではないかもしれません。私は音源屋ではないので興味ありませんが。

浄書サンプル

 最後にMuseScore 2 とMuseScore 4 の浄書サンプルを作成したので、ここに置いておきます。このぐらいの浄書をやってみた上での感想でした。



浄書雑感6 音友『佐藤慶次郎 ピアノのためのカリグラフィー』

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