2021年6月3日木曜日

他のMuseScoreユーザーより見た目で楽譜に差を付けろ

まずは記譜
 楽譜の見た目を左右するのは、記譜と浄書です。「記譜」とは楽譜の書き方のことで、文章における文体そのものを指します。文体が滅茶苦茶だと、どんな文字サイズでも行間隔でも、そもそも読みにくいことでしょう。しっかりした文章を書くのと同じで、楽譜も読みやすい書き方があります。一例として下図にてリズムの書き方での作法を紹介します。このように拍が伝わらない書き方は、リズムのタイミングが分からなくなります。リズムの書き方には一定のパターンがあり、実際にはそれらを組み合わせて楽譜は書かれます。
※個人的な見解です。例えばここで批判的に取り上げた上図4段目の「八分音符2つ+四分音符」は実際には使われている表記です。
 このブログでは「浄書」をテーマにしているため、「記譜」についてはほとんど触れません。ここで挙げた例は一例ですが、出版譜を見てプロの譜面の書き方を勉強することを勧めます。

公式のハンドブックを見よ
 MuseScoreを使う上で、必ず公式のハンドブックは見ておきましょう。MuseScoreのほとんどの機能はそこで解説されています。本ブログでは、公式のハンドブックに書かれていることは知っている前提として扱います。したがってMuseScoreの機能そのものの使い方に関しては本ブログでは扱いません。


 MuseScoreを使う上での、多くの疑問や勘違いは、ハンドブックを読みこめば解消されるはずです。必ずチェックしておきましょう。例えばハンドブックの「繰り返しとジャンプ」の項目を見れば、D.S.を使った時にCodaに飛ばないといった勘違いは解消されます。デフォルトではCodaに飛ぶ記号として"D.S. al Coda"が用意されており、単なるD.S.を用いる場合でもインスペクタでジャンプの設定を適切に書き換えればCodaに飛ばすことができます。本ブログでは操作方法だけの記事は書きませんので、ハンドブックは読み込んでおきましょう。

無闇に記号の位置を動かさない
 MuseScoreで、強弱記号やテンポ記号などをマウスでドラッグして移動させるのは基本的にやってはいけません。なぜならマウス操作で動かした記号の位置を揃えることは、マウス操作では難しいからです。記号を移動させる場合はキーボードでのショートカットキーを使うか、インスペクタで数値を入力して定量的に動かすべきです。記号を選択して"Ctrl + ← or →"で1.00spずつ移動することができます。またインスペクタの水平位置・垂直位置を入力する状態で、"↑ or ↓"で0.5spずつ数値を増減させることができます。

Shift操作でアンカーの位置を変える
 譜表テキストや強弱記号、線記号などの記号は、どの音符や拍に所属するかが決められています。拍に対して設置できる記号は、拍に対してアンカーが打たれます。線記号であれば、アンカーの位置を変えるには記号を選択して"Shift + ← or →"で変えることができます。記号の位置を変える前に、その記号の所属する拍や音符が正しいかをチェックしましょう。

 また、しばしばテンポ記号の位置を変えている譜面を見かけますが、テンポ記号は基本的に「拍子記号」に位置を合わせるのは正しい位置であり、MuseScoreのデフォルトで正しい位置に置かれるので、テンポ記号の水平位置は無闇に変えるべきではありません。

以下の記事も参考にすると良いでしょう。

フォントを変えてみる
 音楽記号フォント(記譜フォント)や文字のフォントを変えると、楽譜の印象が変化します。楽譜の見やすさ自体はフォントの違いでは大きくは変わりませんが、楽譜をこだわって作っていることが伝わりやすいでしょう。MuseScore 3.5.2までのデフォルトの記譜フォントはEmmentalerで、MuseScoreの微妙な浄書の代名詞的となっていました。MuseScore 3.6では、デフォルトではLelandという記譜フォントに変更されており、実際デザイン自体は洗練されていますが、他の記譜フォントに変えてみるのも良いでしょう。MuseScoreで使うことができるBravuraは、有償の浄書ソフトであるDoricoのデフォルトの記譜フォントでもあり、十分実用性のあるデザインとなっています。
 MuseScoreの記譜フォントを変更するには、「スタイルの編集」を開きますが、MuseScore 3を使用する場合、記譜フォントを変更する時に必ず「自動でフォントに基づいたスタイル設定を読み込む」を無効にしておきましょう。この機能がオンになっていると、自分で変更したところを含む諸設定がフォントに基づいた設定に勝手に書き換わってしまいます。スタイルの設定を自分で書き換えている人が後から記譜フォントを変更すると、書き換えた内容が全て上書きされてしまい、悲しい思いをするでしょう。無い方が良い機能です。

全体の設定を見直す
 MuseScoreのデフォルトのスタイルの設定には、残念ながらところどころおかしい点があります。スタイルの設定を見直す際に、楽譜の五線や小節線の太さ等の設定も変えてみると、楽譜の印象が変わります。

 スタイルの設定を弄る時に、拙ブログの「MuseScore2浄書Hashiboso流」は参考になるかと思います。

 また五線サイズが紙のサイズに対して大きすぎたり、小さすぎたりすると、1枚の紙入る小節数が少なくなりすぎたり、紙のスペースが余りすぎたりします。五線サイズを適正に設定しましょう。この設定は、用紙サイズを変える「ページの設定」の中の「譜表のスペース」の数値を変えることで、五線サイズを変更することができます。詳しくは「MuseScore2浄書Hashiboso流 第一課」を見てください。

段割を自分で決める
区切りの良いところでページを変えているヘンレ原典版「浄書雑感3 ヘンレ原典版『ブラームス:8つの小品 Op.76』
 楽譜浄書で一番最初にすべき作業は、「段割」です。1ページに何小節まで入れるか、どこの小節でページを変えるかを自分で決めることは、楽譜のレイアウトを決める第一歩となります。本ブログの浄書雑感で取り上げたヘンレ原典版では、上図のようにページ末尾の小節をなるべく区切りの良い小節か、休符のある小節にする努力がなされています。このような段割をすることで、奏者が自ら譜めくりをすることが可能になります。
 MuseScoreでは「区切りとスペーサー」のパレットにある「譜表の折り返し」や「ページ区切り」等の「区切り」を用いることで、このような段割の作業をすることができます。MuseScoreのデフォルトより、一段に多くの小節を入れたい場合は、本ブログの「区切りとスペーサー」という記事を参考にしてください。

スペーシングが全て
 段割を決めてしまえば、あとはその限られたスペースをどのようにして最も見やすく活用していくかが残りの課題です。演奏者が楽譜を読む時に一度に見なければならない範囲を最小にし、少ない視線移動で楽譜の内容を把握できるようにするためには、音符間隔の決め方や記号の配置の仕方などの細やかな調整を積み重ねていきます。このような音符間隔の調整や記号と記号との距離を決めることを、スペーシングと言います。
MuseScoreは音符のスペーシングの仕様が著しく不適切なため、揃うべき音符間隔が容易に揃っていない場面は多いです。またそれを完璧に修正するのは、MuseScoreの仕様では多大な苦労を必要とします。しかしながら、全く無調整で済ますよりは、多少でも調整した方が良いでしょう。
八分音符に注目すると、小節毎に音符間隔が異なることが分かる

 MuseScoreの音符間隔を調整する第一歩に使える機能として「小節幅の伸縮」があります。伸縮させたい小節を選択して"Shift + [ or ]"とすることで、小節幅を伸縮させることができます。しかしMuseScore 3では「小節幅の伸縮」は0.8以下では全く変化しなくなっていて、小節幅を伸縮することができる程度が少なくなってしまっています。MuseScore 2.3.2では小節幅は0~10の範囲で数値通りしっかり伸縮するので、MuseScore 3では機能が後退しています。
小節幅の伸縮:"Shift + [ or ]"

 MuseScoreの音符間隔を調節する機能として「割振り」がありますが、この機能は複雑な挙動を示すのでここでは説明を割愛します。過去記事にて「割振り」の挙動を解説しているので、詳しく知りたい場合はそれらを参考にしてください。


 ただしこれらの「小節幅の伸縮」機能や「割振り」は、MuseScoreの音符間隔の問題を根本的には何も解決しないので、音符間隔を完璧に調整したい場合は、「一段一小節法」という特殊な手法を用います。これはMuseScoreの仕様を無視するような邪道な手法であり、MuseScoreの機能の一部は働かなくなるデメリットもあります。この手法自体がある程度手間がかかり実際大変ですが、既存の機能で音符間隔を完璧に調整するより圧倒的に作業は楽です。


加算されたスペースの量を調節する
 MuseScoreのデフォルトのスペーシングでは、臨時記号等が前の音符と重ならないように自動でスペースが付与されます。このようなスペースを拙ブログでは「加算されたスペース」と呼称しています。この「加算されたスペース」が加算されすぎている場面がMuseScoreでは多々あります。このような不要な「加算されたスペース」は「割振り」の数値を少なくすることで削ることができます。
 余分な「加算されたスペース」が多いのであれば、あらかじめ全ての音符の「割振り」をマイナスにし「加算されたスペース」を全て削ってから、スペースが必要な箇所のみ「割振り」の数値を元に戻すと良いでしょう。どこにスペースが必要でどこのスペースが不要かを自分で判断することで、浄書でのレイアウトの選択肢を増やし、より見やすい楽譜にしていくことが可能となります。

具体的な手順は以下の記事で説明しています。

 MuseScore 3では「割振り」の仕様が変更されており、一定以上マイナスにしていくと何故か音符間隔が広がってしまうという挙動を示します。スペースを減らすのに却ってスペースが増えてしまうのは本末転倒ですので、スペースが増加に転じない程度で機能を使うと良いでしょう。しかしながらこれらの仕様変更は、音符間隔の調整という観点ではMuseScore 2より自由度が遙かに劣ってしまっているのは事実です。このために私はMuseScore 2を使い続けています。

 ともかく、MuseScoreで楽譜をより綺麗にするためには、まず適切な記譜を適切な操作方法で入力することが大事です。適切な記譜で書くためには市販されている出版譜を参考にすると良いでしょう。MuseScoreの適切な操作方法を身につけるためには、公式のハンドブックを確認しましょう。その上で、フォントを変えてみたり設定を見直ししたりして、全体の見た目を変えてみると楽譜の雰囲気が変わります。読みやすい楽譜にするためには、自分で段割を考えることも大切です。1ページに何小節を入れるか、どの小節でページを変えるかというようなページ構成を決めてしまえば、残りはほとんどスペーシングです。スペーシングは突き詰めていけばゴールのない作業ですが、音符間隔が著しく異なる小節だけを「小節幅の伸縮」で調節するだけでも、かなり異なります。音符間隔を完璧にしたい場合は、既存の機能では果てしない作業になってしまうので、「一段一小節法」に手を出すのも良いでしょう。

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