2020年6月23日火曜日

同拍に異なる連符同士のスペーシング


・音価分割テクニック
 同じ拍に八分音符と三連符がある時など、同拍に異なる音価の連符が絡む譜例の場合、MuseScoreのデフォルトのスペーシングでは、右図のように三連符の一部分が不必要に広がってしまいます。これはMuseScoreが三連符と八分音符が交わる部分を6連符に分割してスペーシングしているからです。そこで、三連符の部分に6連符の休符を入れ、同じ小節の全ての音符に対して等分するように休符を入れることで、MuseScoreが過度に分割した部分を打ち消すことができます。→「非表示の休符を挿入するスペーシングテクニック」


複雑な分割が必要な例
 さて下の譜例の場合はどうでしょうか。MuseScore2のデフォルトの出力です。十六分音符と三連符が同じ拍にあるので、一見、4×3で12等分すれば音符間隔は揃いそうです。
 その前に取り敢えず一段一小節法を適用します。下図は一段一小節法で入力し、全ての音符の前/後の間隔を-3.00spにしてあります。赤色の臨時記号は、一段一小節法では脱落するので、付け直す必要があります。→連載「MuseScoreの音符間隔の仕様と有効な手法」
 さて三連符のところの1拍を12等分したものがこちらです。
 一見悪く無さそうですが、Hashiboso流では必ず最小音価に対し等しい休符の数で分割します。この譜例では16分音符に対し3等分しているのに対し、三連符では4等分しています。更に八分音符や第45小節の1拍目の三連符では2等分になっています。このような分割はMuseScoreの音符比率を乱すためNGです。原則全ての最小音価に対し、共通の分割を行います。

・最小音価
 MuseScoreの音符比率を乱さないためにも、最小音価に対して共通の分割が必要です。従って音価分割テクニックを用いるには、まず私が使っている「最小音価」という概念を理解しておく必要があります。ここでは「最小音価」は、「その部分において最も短い音価を持つ音符または休符」を指します。

・MuseScoreのスペーシング比率
 最小音価に対して共通の分割を行うのは、MuseScoreの音符スペーシングを最大限生かすためです。MuseScoreは単譜表・単声部において、小節内にのみ注目すれば、それなりに妥当な音符間隔になっています。

 下図はDoricoで作成したものですが、一般的に音符間隔は、音価に比例したスペースを持つのではなく、固有の比率に基づいて決められます。長い音符が短い音符より長いスペースを持ちますが、四分音符が八分音符の2倍の間隔にはせずに、楽譜の密度などによって変わりますが、基本は1.4倍程度にします。そのため、各小節の幅は音符の密度によって伸縮しますが、最小音価が同じである部分は、同じ間隔に保たれます。
この図はDoricoで作成
Doricoでは段全体で最小音価が等しい部分の間隔は揃う
MuseScoreでは小節内では最小音価が等しい部分では「素の音符間隔」は揃う




 MuseScoreはDoricoのスペーシング比率とは音符間隔の定め方が異なりますが、小節内では、おおよそ似たような音符間隔になっています。この音符間隔の仕様を乱さずに最大限利用することが、Hashiboso流では必要な操作になります。
 MuseScoreの音符間隔の仕様については、「MuseScoreの音符間隔の仕様と有効な手法1」に詳しく書いてあります。

・音価を等分しても比率は変化しない説
 音価分割テクニックは、音価を等分しても音符間隔の比率は変化しないという仮定を前提に成り立っています。
一段一小節法を用いて音符を入力している。また全ての音符・休符の「割振り」前/後の間隔は-3.00spにしている。一段一小節法のため、段の途中の小節線は小節内に引かれた小節線であり、段末の小節線(二重線)はMuseScoreの機能上の小節線であるため、異なる挙動になっている。機能上の小節末尾は分割が大きい程、分割分のスペースが取られ、広くなってしまうので、小節末尾の分割は控えめにして「割振り」でスペースを調節すべきであろう。
 上図のように、最小音価に対して2等分しても3,7等分しても音符間隔の比率は変化していないことがわかります。しかしMuseScoreの機能上の小節での小節末尾の間隔は分割が大きい程、音符・休符が小節からはみ出ないように、広くなってしまうので、小節末尾の分割は他より少ない分割に抑えて、「割振り」で間隔を調整するのが良いでしょう。なお、分割を行っても小節末尾のスペースに余裕がある場合は、スペースは広がりません。
 このように最小音価に対して共通の分割をすることは、MuseScore本来のそこそこ妥当な音符間隔を乱さないために、音価分割テクニックでは遵守すべきなのです。

・妥当な分割は何か
 さて、右図のようなリズムでは、妥当な音価の分割はどんなものでしょうか。緑枠では最初16分音符が最小音価で、途中から三連符が最小音価になります。最小音価に対し共通の分割をするという原則に従うため、16分音符と三連符の最小公倍数である12分割に加え、16分音符と三連符の分割数が同じにしなければなりません。

 それらのことを踏まえた場合、16分音符2つ+八分音符に対し同拍に三連符が絡むリズムでは、左図のような分割になりました。最小音価である16分音符と三連符に対し、6分割になり、かつ全ての音符に対応する休符があります。最小音価に対し6分割がこの譜例で音価分割テクニックを適用する最適解なので、段全体の最小音価を6分割します。
 上図のようになりました。なかなか大変でインパクトのあるように見えますが、音符間隔は間隔が広い順に「八分音符>三連符>16分音符」になっていて音価の大きさと対応しています。この音符間隔は十分妥当で修正する必要はありません。
 個人的には、16分音符に対して三連符がやや広めに感じたので、段の水平スペースに若干余裕があるので、16分音符の間隔を上図より広めに取って浄書しました(下図)。
・音価分割テクニックと一段一小節法
 上図の浄書例では、MuseScoreのそこそこ妥当な音符間隔に対し、16分音符を広めに調整しました。一段一小節法では、個別の音符間隔は、「割振り」の「前/後の間隔」の数値を弄って調整します。
MuseScore2で一段一小節法を使った時の「割振り」の挙動
 しかし臨時記号や加線等の「加算されたスペース」が含まれている音符と、そうでない音符が段内に混在している場合、右図のように同じ八分音符であっても、「割振り」の数値は同じ数値を流用すると異なる音符間隔になってしまいます。
 そこで、音価分割テクニックを使うと、「加算されたスペース」を含まない拍が休符によって創出されるので、音符と音符の間の拍に位置する休符の「割振り」には、音価の等しい各音符を揃えるのに「割振り」の数値を流用することが出来ます。→一段一小節法と音価分割テクニック」

 今回の浄書例では、最小音価に対し6分割しているので、16分音符を分割した6つの休符のうち、2番目の休符の「前の間隔」を増やしています。
 今回は、音価分割テクニックを使う上で、最小音価に対し常に共通の分割を行うべきだということを強調しました。音価分割テクニックを厳密に運用すると、今回のように非常に複雑な分割になってしまいます。場合によっては、一段一小節法の個別調整のしやすさを生かして、「割振り」で音符間隔を個別に直していく方が、楽かもしれません。しかしながら、音符間隔を個別に調整するには、個人の感覚では難しいものがあるので、場合によって使い分けるのが良いでしょう。

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連載「MuseScoreの音符間隔の仕様と有効な手法1」
非表示の休符を挿入するスペーシングテクニック
一段一小節法と音価分割テクニック

浄書雑感6 音友『佐藤慶次郎 ピアノのためのカリグラフィー』

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