2019年1月31日木曜日

浄書雑感2 春秋社『クララ・シューマン全集1』

 今回は春秋社の『クララ・シューマン全集1』の浄書について感想を書きたいと思います。この楽譜は2014年に春秋社から出版されました。2014年の出版ということもあって、春秋社のピアノ全集の中では珍しくコンピュータ浄書で作られています(浄書業者はクラフトーン)。

 この楽譜は五線幅が約6.2mmで浄書されています。一般的に菊倍版のピアノ譜は、五線幅7mmで浄書されます。前回の浄書雑感で紹介した楽譜は音符の間隔が極限まで詰められ、同じレイアウトでは7mmで浄書するのが不可能な程でしたが、今回の楽譜はおそらく同様のレイアウトでも7mmでも浄書できる程の余裕があります。コンピュータ浄書は線の均質さから多少小さくても視認性を損なわないかもしれませんが、やはり可能であれば大きい楽譜の方が視認性が高いです。

 さてこの楽譜は、音部記号と調号がMaestro、その他が(たぶん)Chaconneという別々記譜フォントが使われています。左図のようにシャープの形状が異なるので、異なった記譜フォントを使っていることがわかります。
 一つの楽譜の中で、異なる記譜フォントを組み合わせて使うのは、あまり勧められることではありません。一種類の記譜フォントだけで浄書する方が、記号の統一感を乱す心配がなく無難です。記譜フォントに限らず、フォント全般は一般と異なる場合はセンスを問われますね。この楽譜では私は記譜フォントの違いはあまり気になりませんが、同時にあえて一部の記譜フォントを変えているメリットもあまり感じません。


 ぱっとページ全体を見たときに綺麗に見えるのは、さすがプロの仕事だと思います。譜割りがしっかりしているからでしょう。しかし細かく見ていくと、スペーシングの品質はあまり良いとは思いません。
 所々、スペーシングが音価に比例したような等幅のものになっている箇所があります。等幅の方が綺麗に見える場合もあるので、敢えてスペーシングを等幅にしているかもしれません。

 一般的に音符のスペーシングは音価と比例の関係にはなっていません。左図の下のようなスペーシングは、二分音符や四分音符が実際よりも長く感じられると思いますし、音価と比例したスペーシングは空間を占有するので非効率です。


 同じ譜例で、通常のスペーシングと等幅スペーシングとで比べてみました。
 どちらも楽譜として支障はないですが、ト音記号の譜表の視認性は通常のスペーシングが優れていると思います。ただしヘ音記号も含めた大譜表としての視認性は、もしかしたら等幅スペーシングの方が良いのかもしれませんね。ただ私の場合、等幅のスペーシングで見やすくするよりも、大きい五線幅を採用することを優先します。今回の楽譜は五線幅が約6.2mmなので、等幅スペーシングをする余裕があるなら7mmの五線幅で浄書すべきだと思います。

 しかし今回の楽譜では、十分なスペースがあるにも関わらず両方の方式のスペーシングが混在しています。
 上図の22,25小節は、同じようなリズムと音型かつ、小節の幅もほぼ同じでありながら、スペーシングの方式が異なることがわかります。22小節は八分音符の幅を均一にしたスペーシングに対し、25小節は16分音符の拍の八分音符が広がった通常のスペーシングです。21~23小節を「敢えて」等幅のスペーシングにするのであれば、24~26小節も等幅にすべきだし、スペース的には可能であるはずです。スペーシングの方針が統一されていないことは果たして意図的であるかは甚だ疑問です。

 次の譜例を見てください。
 上の譜例は小節毎にスペーシングが異なっている例です。赤線はその拍の中で八分音符が最小音価の拍である箇所に付いています。通常のスペーシングであれば、赤線のスペースは同じであるはずです。しかしこの譜例では段内でスペーシングを統一するのを諦め、第30小節では小節内の八分音符だけを同じ幅とし、その結果31,32小節の八分音符幅とは大きく異なっています。
 もしかしたら小節毎にスペーシングを変える方式もあり得るのでしょう。ただし私なら次のように浄書します。
 このように小節毎に八分音符の間隔を変えなくても浄書が成り立ちます。小節毎に音符のスペーシングを変化させるのは、そうせざるを得ない時の最終手段だと考えた方が良いと思います。

 最後にこの譜例を見てください。八分音符の幅にバラツキがあるのがわかると思います。臨時記号がある所で幅が広がるのは当たり前ですが、何も付いていない八分音符のスペースを見ても、段の中でも小節内でも揃っていないところが多いのです。第47小節と第50小節を見比べればスペースが違うことがわかりやすいと思います。


 今回の楽譜は、譜割こそしっかりしているものの、音符のスペーシングはあまり統制の取れたものではありませんでした。こうした問題が発生するのは、浄書ソフトの性能が足りていないからだと私は思ってしまいます。しかし残念なことにこの楽譜に使われているfinaleは、浄書業界の標準というべきソフトです。この楽譜の当時のfinaleのver.と今とではソフトの改善もあるのかもしれません。実際スペーシングの優れた楽譜もfinaleで書かれたものにあります。しかし大変な思いをしなければ整ったスペーシングが実現できないのであれば、finaleがどうして使われているのか、とても疑問に思ってしまいます。

2019年1月27日日曜日

MuseScore3の互換性について

 MuseScore3はMuseScore2で作った.msczファイルを開くことができます。MuseScore3ではレイアウト関連の仕様に大きな変更があるので、レイアウトが崩れますがMuseScore3で編集することが出来ます。MuseScore2で折角浄書したファイルをMuseScore3で開くメリットはあまり無いので、MuseScore2で編集したファイルはそのままMuseScore2を使うことをオススメします。

 MuseScore2で作った.msczファイルをMuseScore3で開く時に、「全ての位置をリセットしますか?」と出ます。これは程度の差はあっても「はい」でも「いいえ」でも既存のレイアウトは崩れます。「いいえ」でも、どうせ整え直す必要があるので、MuseScore3で整え直すのであれば「はい」の方が良いでしょう。

 しかし、MuseScore2ではMuseScore3で編集したファイルは開くことができません。後方互換性はありますが前方互換性は無いのです。MuseScore3でMuseScore2のファイルを編集する場合は、絶対にファイル名を変えて保存するようにしましょう。元のファイルを上書きしてしまうと、MuseScore2で開くことが出来なくなります。

 絶対にMuseScore3で開いたMuseScore2のファイルを、元のファイルを上書きして保存しないようにしましょう。

 MuseScore3で編集した楽譜データをMuseScore2で開きたい場合、.mxlに出力してMuseScore2で開くことで、MuseScore2でも編集することが一応可能です。但し.mxl形式はMuseScoreのレイアウトを完璧に記録している訳ではないので、MuseScore2でレイアウトを整え直す必要があります。今後も楽譜データをMuseScore2で編集するのであれば、MuseScore2で編集した.mxlファイルは.mscz形式で保存しましょう。

2019年1月17日木曜日

MuseScore2で、MuseScore3で追加された記号を使う方法。

 MuseScore3には「<>」の弱アクセント(三善アクセント)など、新しく追加された記号があります。MuseScore2ではそれらの記号が無いため、通常使うことができません。しかし、ある方法を用いれば、MuseScore2でもそれらの記号を楽譜上に入れることが可能です。

 楽譜の記号は文字のフォントと同じ、フォントファイルに入っています。従って、文字として記号を入力することが出来ます。MuseScore3の新しい記号は、多くは「Bravura」という記譜フォントに入っています。

 「<>」の弱アクセントをMuseScore2で書きたい場合、まずMuseScore3を開き、譜表テキストで「特殊文字の挿入」から「音楽記号」の「Articulation supplement」のところにある「<>」の記号を選び、入力します。それをコピーします。



 そしてMuseScore2を開きます。記号を入れたい音符を選択し、譜表テキストを入力して、コピーしたものを貼り付けます。恐らくこの時点で文字化けしていますが、フォントを「Bravura」に指定すれば、「<>」になるはずです。フォントサイズは20ptにすると良いでしょう。最後に記号の位置を調節すると完成です。


 このようにしてMuseScore3で追加された記号を、MuseScore2で書くことが出来ます。

2019年1月14日月曜日

装飾音符の和音の入力のしかた

 MuseScore2で装飾音符に和音を入力するには、次の方法で可能です。

 まず、パレットから装飾音符を入れたいところに、前打音をドラッグします。短前打音は「/」でも入力できます。

 楽譜上の装飾音符を選択した状態で、「Shift+音名」を操作すると、装飾音符上にその音が足されます。音名は「C,D,E,F,G,A,B」の英語音名です。このようにして和音の装飾音符を入力することが出来ます。

2019年1月7日月曜日

演奏時における左右の手を指定する“「”や“」”の作り方


 今回は、MuseScore2でピアノの演奏時に使う腕の左右を指定する記号の入れ方を書きます。




 MuseScoreのマスターパレットを開きます。マスターパレットはメニューの「表示」のところから開くことが出来ます。「Shift+F9」でも開くことができます。
 マスターパレットの「記号」のところで探すと、右図の赤枠のように、演奏時の手を指定する記号があります。この記号を入れたいところの音符にドラッグすることで、記号を入れることが出来ます。記号の位置はインスペクタで微調節するのが良いでしょう。

 マスターパレットで良く使う記号がある場合は、それを自分のパレットに入れておくことが出来ます。これに関しては、この記事を見てください。


 また線記号を使うことで、左右の手を指定する記号を作ることができます。


 まずパレットの「線記号」の「線」を譜面上に置きます。線をダブルクリックして編集状態にしてから、線の掛かっている範囲を、「Shift + ← or →」で調節し、線の長さを「Ctrl + ← or →」または「← or →」で調節します。

 次に「線のプロパティ」を開きます。線記号を右クリックすると、「線のプロパティ…」があるので、そこから開くことが出来ます。
 「線のプロパティ」で始点と終点のフックを有効にします。フックの値はプラスだと下向きに、マイナスで上向きにすることが出来ます。
 最後にインスペクタで位置を調節すれば、このように演奏の手を指定する記号を作ることが出来ます。線を点線にしてもいいでしょう。



 これらの方法はMuseScore3でも同様に出来ます。ただし、マスターパレットから記号を譜面に入れる時は、必ずMuseScoreの自動配置の影響を出来るだけ受けないように配置するよう努めてください。
 マスターパレットの記号を、楽譜の「符頭」にドラッグすると、自動配置の影響を受けやすいように思います。これはどの記号の自動配置をインスペクタでオフにしても、何も変わりません(3.0.2の修正で“「 ”の自動配置をオフにすると反映されるようになったようです)。記号を入れたい音符の上にドラッグするのではなく、入れたい拍のところの何もない空間上にドラッグすると、どうやら自動配置を働かせずに配置することが出来る気がします。
 MuseScore3の自動配置は、完全に無効に出来ない時があるという点で、かなり操作性が悪いのが非常に残念なところです。

2019年1月5日土曜日

このブログで取り扱うMuseScoreのver.について

 MuseScore3がリリースしました。私のブログは今までMuseScore2を前提として記事を書いてきました。私は個人的にはMuseScore3を使用するつもりはありません。今後もMuseScore2に関する記事がメインとなると思います。

 私がこのブログに書いたMuseScore2のテクニックは、MuseScore3でもいくつかは使うことが出来ます。浄書の方法は基本的にはMuseScore2でもMuseScore3でも変わりません。MuseScore3を使う人にも、私の記事が役に立てばいいなと思っています。

 各記事で取り扱っているMuseScoreのバージョンは、記事の下にあるラベルに記しています。2.3.2ならMuseScore2.3.2を3βならMuseScore3のβテスト版を、3.0.0ならMuseScore3に関する記事になっています。

 これからもどうぞこのブログをよろしくお願いいたします。


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浄書雑感6 音友『佐藤慶次郎 ピアノのためのカリグラフィー』

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