2019年3月27日水曜日

記号の衝突回避より大事なこと。

 楽譜浄書で、記号と記号が接触していることを回避するのは、基本中の基本で誰もが望むことで、皆さんも接触を回避するのは意識していると思います。


 全ての音楽記号の接触を回避すると、楽譜が縦横にどんどん広がってしまいます。とてもスペースが足りません。左図の上の譜例は縦に広がりすぎです。一見譜表の間隔をこれ以上狭くすることが難しいように見えるかもしれませんが、無理をすれば左図の下のようにスペースを圧縮するのが可能です。


 ここで多くの人は、五線幅を小さくしてスペースを確保しようとします。これは私は悪手だと思います。文字が大きい方が一般的に読みやすいように、楽譜も大きい方が見やすいです。楽譜を小さくしてしまうことは、可読性という一番大事なものを犠牲にしてしまいます。


 五線幅を出来るだけ大きく保ったまま、演奏者が見るべき楽譜の範囲を出来るだけコンパクトにまとめることは、時に記号の衝突を回避することよりも大事になります。記号の衝突回避には優先度があり、優先度が低いものは往々にして衝突が許容されるものです。


 コンピュータ浄書が普及する前の、彫版浄書やハンコ浄書の楽譜では、左の譜例のように記号が接触している楽譜も実は多いのです。これはコンピュータ浄書では後からスペースを足すことが可能であるのに対し、旧来の浄書では最初に譜表や段の間隔を決めて五線を引いてしまいます。そのためスペースが当初の想定より足りない場合は、接触してでも記号を入れるしかありませんでした。コンピュータ浄書であれば、左の譜例は譜表間隔を広げれば記号の接触は回避できます。ただ譜表間隔を広げることは、演奏者が見るべき楽譜の空間が広がり、視認性が悪くなる要因でもあります。譜表間隔を広げずに記号の接触を回避することをまず考えるべきです。また時と場合によっては譜表間隔を広げないために接触を許容することも必要です。



 MuseScore3では譜表間隔は音符や記号の接触を回避するために自動で広がるようになりました。これは便利な仕様ではありますが、譜表間隔に無頓着でいると、空間が広がりきった楽譜になってしまいがちです。そういった楽譜は演奏する時に一瞬で広い範囲を見なければいけないので、見ながら演奏するのが大変になります。

 譜表間隔が無闇に広がらないようにするには、間隔を固定するスペーサーを入れる必要があります。MuseScore3にはパレットの「区切りとスペーサー」のところに“Staff spacer fixed down”というスペーサーが追加されています。これを使うことで、個別の譜表間隔を任意の値で固定することが出来ます。
 いちいち勝手に譜表間隔が広がるのが嫌な場合は、予め全ての段にこのスペーサーを入れてから浄書をすると良いでしょう。

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