2023年10月25日水曜日

音符間隔を狭めることが可能になったMuseScore 4.1

 MuseScore 4.0では、音符の前の間隔を、「加算されたスペース」を超えて狭めることはできませんでしたが、4.1では「加算されたスペース」の有無関係なく前の音符に重なる程度まで狭めることができるようになりました。

音符間隔を狭めることができるようになったMuseScore 4.1

 またMuseScore 4ではスペーシング比率によって音符間隔が一貫して定められるようになり、小節毎に音符間隔がバラバラにならないようになりました。

二分音符、八分音符、三連符に注目
 これらのアップデートにより、MuseScore 4.1では水平スペーシングの調整が現実的な作業工程の範囲内で、完遂することができるようになりました。ようやくMuseScoreは音符間隔を調整するのに必要な機能を備えるようになりました。

ver.4.1であれば、このような譜面の音符間隔を調整するのは容易になっている

 とはいえ、MuseScore 4では繊細な浄書作業を行う能力が以前のバージョンに比べ劣っており、総合的にはMuseScore 2の方が楽譜浄書を行うのに必要な性能を備えています。


まともに記号の選択ができない

 MuseScore 4では記号の選択範囲が大きくまともに選択できない時があります。下図ではスラーを編集しようと慎重に編集点をクリックしても、小節全体が選択されてしまっています。仮にこれがMuseScore 2であれば、スラーの編集点を正常に選択できます。MuseScore 2でも記号が近接している場合は記号の選択が他の記号に吸われることは起こりますが、MuseScore 4では明らかに離れている記号同士でも選択が吸われてしまうので、使い物になりません。

スラーの編集点をクリックすると、小節全体が選択される

矢印キーでの移動量が大きすぎる

 MuseScore 4では、一部の記号の位置や傾き等を調整する時の、矢印キーでの調節量が大きくなっています。線記号のクレッシェンドやスラー・タイ等は、上下左右の移動・伸縮や傾き調整における矢印キーでの変化量が大きすぎるので、微調整が不可能となっています。位置だけならプロパティの数値を直接入力することでより細かく調整できますが、傾きや線の伸縮の数値を直接弄ることは不可能であり細かく調整する手段はMuseScore 4にはありません。

連桁の調整は実質不可能

 この記事でも述べましたが、MuseScore 4で連桁の調整は不可能です。4.0でも4.1.1でも変化はありません。MuseScore 4を使う場合は連桁の傾きを変えようとは思わない方が良いでしょう。他のソフトを使うか、MuseScore 3以下のver.を使う方が良いです。

MuseScore 2を使った方がマシ

 デフォルト出力での浄書品質が増せば増すほど、個別調整は大雑把な調整よりも細かな微調整が多くなります。実際MuseScore 4はMuseScore 2と比べれば、記号の衝突が回避され音符間隔が良くなり、デフォルトの見た目は大きく改善したのでしょう。しかしそこから見た目を更に良くすることはMuseScore 4では困難です。MuseScore 2のような「かつてのMuseScore」はもともとは細かな調整が可能でした。残念です。

 MuseScore 2はデフォルトでの見た目は非常に悪いですが、まず微細な調整が可能です。更に私はMuseScore 2の最大の欠点である音符間隔を、最大限改善し自在に調整する手段を確立しています。私にとっては、理想的な楽譜浄書を実現することができる、十分なツールです。


2023年1月22日日曜日

「割振り」完全解説

 突然ですが、MuseScoreの音符間隔を調整する機能「割振り」を完全解説します。

 残念ながらMuseScoreの開発陣は「割振り」の機能を理解していないっぽいので、MuseScore 2 という昔のMuseScoreを用いて解説します。

「割振り」は音符間隔の伸縮機能ではない

 「割振り」は音符間隔の伸縮機能ではありません。「加算されたスペース」の調整機能です。「加算されたスペース」というのは、臨時記号などによって音符間隔の前後に足されたスペースのことです。MuseScoreでは音符間隔の各区間をセグメント*と呼称しています。

*日本語訳では「割振り」という意味の通りにくい翻訳になっています。

 「割振り」では音符間隔に追加で足されたスペースのみを調整するため、それら「加算されたスペース」が含まれていない音符間隔を狭めることは出来ません。「加算されたスペース」が含まれない音符間隔のことを「素の音符間隔」と呼びます。

 さてMuseScoreは小節に含まれるスペースの量によって、小節自体が水平スペーシングの整合性を無視して独自に伸縮します。それには「加算された」スペースも含まれます。故に「割振り」の機能には「加算されたスペース」の伸縮挙動の他に、小節全体の伸縮挙動が現れることがあります。つまり個別の音符に対し音符間隔を伸縮させようとしても、条件によっては小節全体が伸縮します。

 この余計な挙動を防ぎ、「割振り」の「加算されたスペース」を伸縮する挙動だけを機能させるには、「一段一小節法」を使います。「一段一小節法」については以下の記事を見てください。


 「一段一小節法」を使った時の「割振り」の挙動は以下の通りです。このように「一段一小節法」を使えば、小節全体の伸縮挙動を回避して「加算されたスペース」が含まれる音符間隔のみを狭めることができます。

MuseScore 2.3.2 で「前の間隔」を減らした時の挙動

MuseScore 2.3.2 で「後の間隔」を減らした時の挙動

 これらの挙動を表にまとめると次のようになります。



一段一小節法アリ

一段一小節法ナシ

前の間隔を増やす

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げている場合

○

○

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げていない場合

○

△

加算されたスペース無

○

△

前の間隔を減らす

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げている場合

○

○

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げていない場合

変化なし

×

加算されたスペース無

変化なし

変化なし

後の間隔を増やす

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げている場合

○

○

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げていない場合

○

△

加算されたスペース無

○

△

後の間隔を減らす

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げている場合

○

○

加算されたスペースが個別の音符間隔を広げていない場合

変化なし

×

加算されたスペース無

変化なし

×

○: 個別の音符間隔の伸縮挙動
×: 小節幅の伸縮挙動
△: 小節幅の伸縮挙動の後に個別の音符間隔の伸縮挙動が表れる
変化なし: 音符間隔は変化しない

 このように一段一小節法を使えば、個別の音符間隔の伸縮挙動のみのシンプルな機能として割振りが機能するようになります。また「加算されたスペース」が含まれていないスペースを短縮させることはできないことから、「割振り」の伸縮機能は「加算されたスペース」を伸縮させる機能であることがわかります。

「割振り」で音符間隔を調整するには

 「割振り」では「素の音符間隔」を狭めることは出来ません。「素の音符間隔」を個別に狭めるためには、狭めるところ以外の音符間隔を全て広げることで、相対的に狭めることができます。狭めるところ以外の音符間隔を全て広げるためには、「音価分割テクニック」を用います。これは全ての音符間隔を休符によって等分割する方法です。詳しくは以下の記事を見てください。


 「音価分割テクニック」を用いることで、「加算されたスペース」の含まれないセグメントを作り出すことが出来ます。「加算されたスペース」が含まれるセグメントとそうでないセグメントでは、同じだけスペースを増やそうとしても、異なる「割振り」の数値を用いなければなりませんが、意図的に「加算されたスペース」を含まないセグメントを作り出すことで、同じ数値を「割振り」に用いて同じだけスペースを調整することが出来ます。

「割振り」は音符間隔の伸縮機能という誤解

 MuseScore 3 では「割振り」の仕様が変更されました。MuseScore 3 ではセグメントを伸縮させるのに、音符の前の間隔だけで調節することになりました。
 確かに、音符間隔の伸縮機能であれば、音符の前後2方向共に伸縮させる必要はなく、片側の間隔が調整できれば十分です。しかしながら、音符間隔の調整機能であれば、音符の「前の間隔」ではなく「後の間隔」の方を調節機能として残すべきであり、「前の間隔」に集約したことは理にかなっていません。更にもともとは「加算されたスペース」の調整機能であることを考えれば、音符間隔の伸縮機能として作り変えること自体が間違っています。

 音符間隔の調整機能としてみても、「割振り」の挙動はMuseScore 2 よりも使えない代物になってしまっています。「割振り」のスペースの縮小に下限が設けられ、一定以上数値を下げると却って音符間隔を広げてしまう謎仕様となってしまっています。これにより、「音価分割テクニック」を音符間隔を狭める用途で使うことは難しくなりました。
 当然ですが、MuseScore 2 では「割振り」の間隔の数値を減らし続ければ、間隔がどんどん狭めっていきます。数値を減らした結果、間隔が増えるということは、まずありません。「後の間隔」を減らした時に末尾の小節線よりも後ろに張り出すことで、若干間隔が増えてしまう現象はありますが、末尾の音符と小節線までの間隔が減ったことによる現象ですので、問題ではありません。
 MuseScore 3 では、「割振り」の間隔の数値を一定以上減らすと、逆に間隔が増えてしまいます。意味が分かりませんね。

 MuseScoreには、現時点での最新のMuseScore 4 であっても、「素の音符間隔」を狭める手段がないにも関わらず、個別に音符間隔を狭める調整を必要とする場面は未だ残っています。音符間隔を狭める最も合理的な手段は「音価分割テクニック」でしたが、音符間隔が狭まる度合いが制限されている以上、使える場面も限定される結果になっています。実質的には使えません。

 MuseScore 4 においても「割振り」の機能自体はMuseScore 3 のものをほぼ継承しているので、同じ問題を共有しています。つまりあまり使い物にはならないということです。

結局のところ「割振り」の機能って何なの?

 「割振り」の伸縮機能は、臨時記号などによる「加算されたスペース」の伸縮機能です。間隔を増やせば「加算されたスペース」が増やされ、間隔を減らせば「加算されたスペース」を減らします。「加算されたスペース」が無い場合は、間隔の値を減らしても、間隔は変化しません。しかしながらMuseScoreの小節が独立して伸縮する挙動によって、「割振り」で本来の機能に反して小節全体が伸縮することがあります。こうした挙動は「一段一小節法」で無効化することができます。MuseScore 2 で「一段一小節法」を用いた時の「割振り」の挙動はまさしく「加算されたスペース」の伸縮機能としてのシンプルな挙動のみを示しており、この挙動がおそらく「割振り」の本来の機能だと言えます。

2022年12月19日月曜日

MuseScore 4 のリリースについて

 12月14日、MuseScore 4 が正式にリリースされました。私はもはやMuseScoreのアンチですが、軽く触った所感をお伝えしたいと思います。


性急すぎたリリース

 はっきり言って、MuseScore 4.0 は正式版としてはお粗末な完成度だと思います。実質αテストだと思った方が良いかもしれません。MuseScore 4.0 ではMuseScore 3 系列に実装されている多くの機能が未実装のままです。また実装されている機能も調整が甘く、使い勝手は良くありません。今、MuseScore 4 に移行するのはオススメしません。ver. 4.3ぐらいまでは待った方が良いと思います。

2022/12/19時点ではMuseScore 3 で実装されている多くの機能がMuseScore 4 では実装されていません。

 MuseScore 3 にあったピアノロールエディターすらMuseScore 4.0 では実装されていません。クローズドαテスト版かな?

 あと今回のMuseScore 4 には、どういうわけかは知りませんが、公式からはリリースノートが出されていません。MuseScore 3 の時にはリリースノートがしっかり公開されていましたが、今回のリリースは色々といい加減な気がします。というかリリースノートが無いとこういう記事書くのに困るんだよ。
リリースノートの一覧には何もない
 リリースノートが無いため、今回はMuseScore 4 の新機能や変更点の概略は面倒くさいので書きません。軽く触ってみて気になった点を中心に書きます。

インスペクタからプロパティタブへ

 MuseScore 4 では、MuseScore 2 やMuseScore 3 でのインスペクタの代わりに、プロパティが左側にタブの1つにまとめられています。この配置では、記号や音符に対して調整を加える時にいちいちタブを切り替える必要があるので、個別調整を多用するユーザーにとって不便だと思います。幸いなことにプロパティタブをドラッグすると任意の場所に移動できるので、インスペクタに慣れているユーザーは従来通り右側に配置すると使いやすいでしょう。

連桁の調節が終わってる

 MuseScore 4.0 では、実質的に連桁の微調整は諦めた方が良いです。大きく機能が変わったわけではありませんが、使用感に関してはかなり劣化しました。

矢印キー1回あたりの移動量

 まず矢印キー1回あたりの移動量がMuseScore 3 から変更され、大きく移動するようになりました。これでは正直移動量が大きすぎて、細かい調整には向きません。正直使いにくいです。矢印キー1回あたりの連桁の移動量は、MuseScore 3 までの仕様が最適なものであって、またDoricoですらアプデでMuseScore 3 までの仕様と同じ移動量に最適化されたという事実もあるので、これは単なる改悪だと思います。実際MuseScore 4.0 ではデフォルトの連桁の傾きに対し、矢印キーの操作では移動量が大きすぎるために、手動で連桁を平行にすることはできないぐらいです。これでは連桁の傾きを修正するのに不便です。
 また、矢印キー1回あたりの移動量が変わったのは連桁だけではありません。この変更により記号類の配置を微調整するユーザーにとっては使用感が大きく変わったと感じられるでしょう。移動量が最適でなければ、記号を理想の位置に配置するのに、別の操作方法をも併用しなければ目的を達成できないので、こうした変更は慣れの問題ではないのです。

連桁の傾き1/4未満の調整ができない

 矢印キーでの操作では連桁の傾きを調整しきれないため、プロパティで直接数値を弄って調整することになりますが、こちらも何故か細かい調整が聞かなくなっています。最小の移動量が矢印キーの半分ほどの移動量になっており、それ未満の数値は連桁の配置に反映されないようになってしまっています。一般的な連桁の調整では何とか使える程度ですが、連桁の太さや間隔を変更した場合にはより微細に連桁を調整する必要があるため、こんな仕様では使えません。MuseScore 3 までではしっかり数値が反映されていて、微細な調整が可能だったので、機能が劣化したというほかありません。

扇型連桁と連桁間隔

 MuseScoreには扇型連桁を作るために、連桁の両側の間隔を個別に変更する機能があります。MuseScore 4.0 ではこの機能のUIが変更されました。連桁の片側を8分音符、もう片側を32分音符に段階的に変化するような、扇形連桁を作る場合はわかりやすく手軽になっていますが、両側を弄って連桁そのもの間隔を個別調整したい場合は考慮されていません。

連桁両端の間隔を等しい値にすると、
間隔調整のプロパティは隠される
 MuseScore 4.0 のプロパティで扇形連桁を選択すると、連桁の両端の間隔が強制的に1と0にされる上に、仮に既に両端の間隔を1.3などに設定していた場合も強制的に数値が1と0に上書きされます。また、両端を同じ数値にしている場合は、両端の間隔を調節する部分が隠されてしまうので、あとから調節し直す時には再び扇形連桁のアイコンを選択する必要があります。つまり調整を1からやり直すことになるのです。

連桁の間隔を調整後、
再選択すると数値がリセットされる

 そもそも4.0では扇形連桁を作る場合においても、連桁の間隔を弄っても数値が保持されないという致命的なバグがあります。つまり個別調整は不可能です。


 これらの不適切な変更を考慮すれば、MuseScore 4.0 では連桁を調整することは現実的にはしんどい作業になってしまいました。やらない方が良いですし、連桁を調整する必要があるならMuseScore 4.0 を使うべきではありません。

近くのエレメントに選択を吸われる現象

スラーの調整ポイントの□を選択しても、連桁に選択がいく現象
 MuseScoreでは、これまでも線記号においてはカーソルの当たり判定が大きく、接近した他の要素のカーソル選択に干渉する現象がありました。MuseScore 4.0 は酷いです。明らかに別の記号や編集点を確実に選択しても、他の記号に選択が吸われてしまう現象があります。これでは記号の位置の調整をするときにストレスフルなので、記号の位置調整をMuseScore 4.0 でするのはオススメしませんし、MuseScore 4.0 を使うべきではありません。


手動調整を制限する自動配置機能

 MuseScore 3 で導入された記号類の衝突を自動で避ける自動配置機能は、自動配置というよりも、記号類の衝突を制限する機能です。これは手動調節による記号の衝突を制限する結果となり、手動調節を阻害する要因となっています。MuseScore 4.0 では手動調節の排除の度合いがより強化され、自動配置が有効な場合には、ほぼ手動調節はできません。
MuseScore 4.0 では自動配置は音符間隔調整をも制限する
 MuseScore 4.0 では「加算されたスペース」によって広げられた間隔は、自動配置による制限の対象であり、自動配置を無効にしなければ、狭めることはできません。
MuseScore 3 では自動配置が有効でも間隔は狭められる
 MuseScore 3 では自動配置が有効であっても、「割振り」の「前の間隔」を減らしていけば、「加算されたスペース」分の間隔を狭めることができます。

 自動配置が干渉するスペースを調整するには、自動配置をオフにするほかありませんが、MuseScoreの音符や記号の配置は自動配置機能がすでに前提となっており、自動配置を無効にすると配置が乱れてしまいます。つまり手動調節をするのであれば、自動配置の恩恵はほとんど受けられず、MuseScore 2 よりも酷い状態から全て手動で記号の位置を配置し直すことになります。であれば、MuseScore 2 を使った方が良いでしょう。

重ね順はココ

 MuseScore 3 での数少ない改良点の一つに「重ね順」という機能がありますが、そのUIも変更が加えられ、分かりにくくなっています。
 「編曲」は誤訳ですが、ここで重ね順を変えることができます。

水平スペーシングの改善

 MuseScore 4.0 ではMuseScoreの伝統的な音符間隔配置の欠陥が修正されています。スペーシング比率に基づいて音符間隔が決められるようになりました。これによりデフォルトでは小節ごとに音符間隔が変わる問題が解消されました。また三連符に対する八分音符のような場合でも、短い方の音符間隔を広げずに八分音符が配置されるようになりました。

小節幅の伸縮

 MuseScore 3 では小節幅の伸縮機能が非常に制限されており、使えるものではありませんでしたが、MuseScore 4.0 では一定の改善が行われ、そこそこ機能するようになりました。とは言っても、全体の音符間隔が揃うようになっているので、小節を個別に伸縮させると音符間隔を崩す結果になります。MuseScore 4.0 ではこの機能は使わない方が綺麗な楽譜を作りやすいでしょう。この機能自体もMusScore 2 であればより制限なく使えるのですがね。

VSTに対応

 VSTに対応したのはMuseScore 4 の目玉ですが、ピアノロール機能が削除されている現状では、MuseScoreをDAWとして運用するほどのものではないかもしれません。私は音源屋ではないので興味ありませんが。

浄書サンプル

 最後にMuseScore 2 とMuseScore 4 の浄書サンプルを作成したので、ここに置いておきます。このぐらいの浄書をやってみた上での感想でした。



2022年11月24日木曜日

Doricoで音が出ない時の対処法

 Doricoをインストールして音が出ない時、Dorico公式がトラブルシューティング動画を出しているので、それを参照すると良いです。

Doricoでの再生に関する問題のトラブルシューティングサポート

 初めてSteingberg製品を使用する場合、オーディオ設定をチェックする必要があります。コンピュータ側のサウンド設定を、16bit, 44100Hzに設定すると、音が鳴るかもしれません。

 詳しくは公式のトラブルシューティングを見てください。

2022年6月24日金曜日

90年代に使われた、消え去った浄書ソフトたち

 2022年現在、出版譜に使われる楽譜浄書ソフトは主にFinaleかSibeliusのどちらかと言えます。しかし1990年代の出版譜ではFinaleやSibelius以外に、「SCORE」や「TOPPAN new scan-note」と呼ばれる浄書ソフトも使用されていました。この2つの浄書ソフトは2000年代に入ると次第に使われなくなり、Finaleが出版譜に使われる浄書ソフトとしての地位を圧倒的なものになってしまいました。しかしながらこれら2つの浄書ソフトで作られた譜面は、浄書品質ではFinaleに決して劣ることはなく、むしろ優れているとさえ言えます。今回は「SCORE」と「TOPPAN new scan-note」が使用された出版譜の譜例を紹介し、浄書ソフト黎明期に想いを馳せたいと思います。

SCORE

 SCOREは90年代に広く使われた浄書ソフトの一つで、Leland Smith氏により開発が行われ1987年に最初にリリースされました。Windows以前のMS-DOS向けに作られたこともあって、2000年代以降ではFinaleの普及によってシェアが奪われていきました。Windowsへの対応は2009年のWinScoreのβテストにより試みられていましたが、メモリーリークや多数のバグに悩まされ、2012年の公式リリースされたものの2013年の最終リリースに至るまで、実際のところはβ版の域を出ないものでした。そして開発者であるLeland Smith氏は最終リリースの6週間後に亡くなってしまい、SCOREは現在では全く使われない浄書ソフトとなりました。
 SCOREは現在では使われないソフトですが、幸いにも英語版Wikipediaに記事が存在します。興味があれば一度見てみてください。

 SCOREによる浄書譜面の一例として、ショット社から出版されているリゲティの『ピアノのための練習曲集 第1巻』より下図の譜例を紹介します。
 SCOREの譜面の最大の特徴は、スラー・タイの形状です。コンピュータ浄書のスラーの中で、おそらく最もハンコ浄書のスラーをよく再現していると思います。スラーの中央付近がほぼ直線状であり、まるで底辺の除いた台形に近い形状が特徴です。コンピュータ浄書ソフトのほとんどは、3次ベジェ曲線でスラーが描写されますが、直線部がなくスラーの中央が必ず盛り上がる形状のため、長いスラーではスペースを無駄に占拠してしまいます。中央部が直線に近いスラーの方が、長いスラーでは収まりが良いのです。またスラーの両端から中央への線の太さの変化具合も、他の浄書ソフトよりもハンコ浄書の具合に近いように思えます。ハンコ浄書をコンピュータ上に再現するという観点では、スラーにおいてはSCOREが最も優れた唯一無二のソフトです。またSCOREによる浄書譜面の多くは、90年代~00年代のFinaleによる譜面よりも正確な音符スペーシングを備えています。これらの特徴から、楽譜浄書の伝統的なエッセンスを損なわずに、コンピュータ浄書の正確で隙のない浄書を比較的高次元で実現できているのです。

TOPPAN new scan-note

 残念ながら「TOPPAN new scan-note」はSCOREとは異なり、Wikipediaに記事が存在せず、またその他の文献もほとんど見つけることができない、まさに忘れ去られた浄書ソフトだと言えます。しかしながら90年代の出版譜は2022年においても一般に販売・流通していることから、「TOPPAN new scan-note」が使われたと考えられる楽譜は十分に入手が可能です。そして、日本における90年代の出版譜の中で、使われているのがFinaleでもSCOREでもない譜面群は明確に存在します。これらの譜面群には共通の特徴が認められるので、おそらく「TOPPAN new scan-note」が使われていると推測することができます。

神野浄書技研による浄書譜

 浄書家である星出氏のWebページには、神野浄書技研がTOPPAN new scan-noteを使用していたという記述があります。神野浄書技研の譜例は以前に、フランク集を浄書雑感で紹介しましたが、今回はまず春秋社『園田高弘校訂版 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第17番』を用いてTOPPAN new scan-noteの特徴を見てみましょう。
 TOPPAN new scan-noteは音符間隔が比較的正確な印象があります。上図は下段の八分音符の間隔は全て根拠があり、音符間隔が伸びている部分は間に別の音符がある区間になっています。春秋社『園田高弘校訂版 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ』シリーズは、神野浄書技研による浄書になっており、フランク集の浄書のように過密で超絶技巧な派手さはないものの、適度な密度の中で確かな技巧が散見されるバランスの整った浄書になっています。

TOPPAN new scan-noteだと思われる出版譜群

 神野浄書技研はTOPPAN new scan-noteが使われていることが文献で示されている、今回探しうる唯一の例ですが、日本の90年代出版譜の中には、FinaleにもSCOREにも該当しない、もちろんSibeliusでもない浄書ソフトが用いられた出版譜が一定数存在します。その出版譜の記譜フォントは以下の図のものです。
 これは木下牧子作曲の抒情小曲集『月の角笛』(カワイ出版)から抜粋したものです。この記譜フォントの出版譜は90年代においてそれなりに見つけることができます。
 私はこの記譜フォントが使われた出版譜は、TOPPAN new scan-noteによる浄書だと考えています。記譜フォントは神野浄書技研のものとは異なりますが、スラーの形状に類似性を感じます。これらの浄書譜では、3次ベジェ曲線に似た通常のスラーのほかに、両端部の曲がり具合の強い「かまぼこ型」のスラーが見られます。神野浄書譜でも『月の角笛』でも「かまぼこ型」のスラーの端部分の曲線がなぜかデコボコしているという共通点が見られることから、共通のソフトウェアが使われていることが伺えます。

 1990年代は家庭用コンピュータが普及した時代でした。それまでは現在コンピュータで行われるクリエイティブな作業の多くは、人間の手作業によって行われていたのです。それゆえに、1980~1990年代はアナログな職人技術が極まった時代とも言えるでしょう。日本のアニメーションはその好例です。1990年頃のアニメ作品はセル画最後の時代故の凄まじい作画を伴ったものが複数ありました。「王立宇宙軍 オネアミスの翼(1987)」や「攻殻機動隊(1995)」や「ASTRO BOY 鉄腕アトム(2003)」などは今でも時より作画を語られるものでしょう。
 しかしながら、多くの人の記憶に残り、今でも親しまれているアニメとは異なり、楽譜浄書はその存在自体があまり知られておらず、コンピュータが使われていない時代の出版譜が手作業の境地で制作されていることにすら気づかれにくいのです。すなわち、楽譜浄書に対する世間の関心は無に等しく、そのために楽譜浄書の技術体系が継承されにくくなっています。コンピュータが普及した90年代こそ、楽譜浄書ソフトを作り上げる過程でコンピュータ上で浄書を再現するために、技術体系の継承の努力が最もなされた時代だと考えられますが、30年前のプログラムでは完全に継承できたわけでもなく、それから30年余りが過ぎFinaleが当たり前となった2020年代では、ハンコ浄書や彫版浄書での楽譜浄書のエッセンスは失われてしまっているのではないでしょうか。1980年代に30代の若者は2020年代では70代であり、当時のハンコ浄書職人の全ては引退し、その多くはこの世を去ってしまっていることでしょう。90年代に使われた「TOPPAN new scan-note」も文献がほとんど残されておらず、当事者以外にはその存在を知る機会はありません。本当にこのままで良いのでしょうか。
 1990年代はコンピュータ浄書の黎明期であり、また浄書ソフトのユーザーもハンコ浄書・彫版浄書の再現に苦心した時期でもありました。その努力が色濃く窺える作品はいくつか見ることができ、今回のリゲティ譜や神野浄書技研はその代表例です。これらの譜面を掘り起こし、90年代のコンピュータ浄書におけるハンコ浄書・彫版浄書の再現しようとした努力に光を当てることで、より精緻な楽譜浄書を実現させるためのノウハウや技術体系を解明させることが可能だと思います。90年代浄書ソフト黎明期の、浄書ソフトと生み出された浄書譜の研究こそが、現在のコンピュータ浄書時代における楽譜浄書の理想形を追求するための大いなるヒントとなり得るでしょう。

2022年1月16日日曜日

水平スペーシングの考え方の全て 第五回

 前回までは、水平スペーシングで考慮される様々なスタイルをまとめました。第五回では、今までの内容を用いて実際の浄書例を分析したいと思います。

ヘンレの彫版浄書

 ヘンレでは2000年頃に至るまで、彫版浄書と呼ばれる手法で楽譜が浄書されていました。以下の動画では彫版浄書の様子が記録されています。ヨーロッパでは浄書ソフトが普及する以前はこのような方法で楽譜が作られていました。
 この譜例は、2003年に出版されたヘンレ原典版のシューマン, Novelletten op.21から抜粋したものです。2003年に出版されたものですが、彫版による浄書でコンピュータ浄書ではありません。人間の手で浄書されているにもかかわらず、図示した部分において全ての音符間隔を「素の音符間隔」と「加算されたスペース*が含まれる音符間隔」に分けることができます。それだけそれらのスペースを区別し正確な間隔で版刻されていたということです。
 「加算されたスペース」が広く取られている一つの要因として、赤枠で示した「スペーシングブロック**」が考えられます。第123小節の赤枠部では、2点ト音の真下のスペースに1点ト音の♮を入れることが可能ですが、「スペーシングブロック」によってスペースが広げられています。また第125小節の赤枠部も同様です。ここで面白いのは、符鉤単体では「加算されたスペース」としては考慮されていないのにかかわらず、「スペーシングブロック」には考慮されている点です。このように音符間隔の精度の高い浄書からは、かなり細かい流儀を読み取ることが可能です。

2021年11月26日金曜日

水平スペーシングの考え方の全て 第四回

 第四回では、音符間隔の個別調整について記します。流儀によって個別調整を行うか否か、またその調整の程度などはそれぞれ異なります。つまりここに記したことは、やってもやらなくてもどちらでも構わないのです。

符尾の方向による視覚的補正

 符尾の上下の違いによって、音符間隔が狭まって見えたり、広がって見えたりします。このことを補正するため、音符間隔を個別に調整することがあります。特に連桁が譜表を跨いでいる譜例では、符幹の間隔を優先させて揃えた方が、等間隔に見えるでしょう。補正の掛け方は流儀によって異なり、譜表を跨ぐ連桁では、符幹を等間隔にする流儀から等間隔の一歩手前までの補正に留める流儀も考えられます。

上昇音形と下降音形

 符尾の上下の違いだけでなく、上昇音形と下降音形にまで音符間隔の補正範囲を広げる流儀もあります。すなわち上昇音形では音符間隔を広げ、下降音形では狭めます。

上昇音形と下降音形の最短間隔

 水平スペーシングの密度が極めて高い場合、隣り合う符頭の接触回避に必要なスペースは、上昇音形と下降音形で異なります。符頭は右上方向の楕円形状のため、下降音形では上昇音形よりもスペースを短縮することができます。

異なる声部・譜表間のスペース短縮

 声部の分かれた音形では、右図のように音符間隔を短縮する考え方があります。右図上は2拍目下声部の四分音符の拍が2.5拍目の上声部の八分音符によって、八分音符2つの拍に分割されています。2.5拍目の八分音符の間隔は、八分音符がそこにあるので、音価分のスペースを保つ必要がありますが、2~2.5拍の部分は狭めることができます。この部分を狭めることによって、下声部の1拍目と2拍目の四分音符の間隔の差を少なくすることができます。このスペーシングの処理は、対数的スペーシングで起こる音符間隔の歪みを少なくすることができます。またこのスペーシングの処理は、声部だけでなく異なる譜表間でも有効です。

部分的な比例的スペーシング

 第一回でも言及しましたが、部分的に比例的スペーシングを適用することは一つの方法です。右図下では、八分音符は十六分音符の2倍のスペースを持つ比例的なスペーシングになっており、八分音符の間隔を揃えています。ただし六連符の部分には比例的スペーシングを適用していません。その結果、六連符の部分の八分音符は、他の八分音符よりも間隔が広くなっています。
 一般的に比例的スペーシングを適用すると、音価の短い方の音符間隔が狭くなります。右図の十六分音符の間隔を比較すると、対数的スペーシングよりも比例的スペーシングの十六分音符の間隔が狭くなっています。対数的スペーシングの方が音符間隔に余裕があり、一段により多くの小節を入れることができるため、一般的には対数スペーシングが用いられます。ただ、部分的に比例的スペーシングを適用するのは、スペーシングの一つの手段として有効です。

ローカルスペーシング

 加算されたスペースが含まれる譜例で、上下で異なる比率の連符で構成される右図のような譜例の場合、通常のスペーシングでは右図上のように三連符の音符間隔は上の五連符に掛かる臨時記号の加算されたスペースによって、部分的に広げられます。この部分的に広げられたスペースを、連桁で区切られたグループ毎に均等に分配すると右図下のようになります。
 ローカルスペーシングを適用しない右図上の譜例では、加算されたスペースによって広げられた部分以外の三連符の間隔は全て揃っています。一方でローカルスペーシングを適用した右図下の譜例では、ローカルスペーシングの区画毎に三連符の間隔は異なります。

リズムの縦を揃えない譜例

 音符間隔において、異なる譜表であっても同拍にある音符の縦のラインは揃えますが、場合によっては多少前後にずらすことを許容することがあります。このようなスペーシングも、部分的にスペースを均等に割り振っているため、ローカルスペーシングの一種と言えます。

・歌詞付き

 欧文の歌詞の譜面では、音符間隔は歌詞のスペースの確保のために増減します。このために音符間隔の歪みが生じます。これを解消するために、他のパートとの縦の同期を切って、音符間隔を揃えることがあります。

・別々の譜表間

 こうした縦の同期を切った音符間隔の調整は、右図のように欧文歌詞だけでなく別々の譜表間でも可能です。こうした縦を揃えないスペーシングは、譜表やパート毎の関係性が薄ければ薄いほど、つまり演奏時に別のパートを見ないような関係性であるほど有効であり、逆に密接であればあるほど、やらない方が良いでしょう。右図でも八分音符の部分では、拍が揃っていないことが明らか過ぎて奏者に困惑をもたらす恐れがあるので、やらない方が良いでしょう。しかしながら、スペーシングの選択肢として縦を揃えないローカルスペーシングは、考慮に入れられると良いでしょう。

 今回は音符間隔の個別調整で取ることができるいくつかの考え方をまとめました。ここに記したことは、必ずしもする必要はありませんし、やってもやらなくても良いです。またその中間の調整に留めておくことも十分考えられます。今回の記事を通じて、楽譜浄書のスペーシングの選択肢を増やしていただけたら幸いです。次回は、今までの記事の内容を用いて、実際の譜例を分析していきたいと思います。

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