MuseScore2浄書Hashiboso流 第三課

第三課 フォントと書式

記譜記号のフォント(スタイルの編集)
 MuseScore2以降のMuseScoreでは、ト音記号や音符・強弱記号などの記譜フォントは3種類用意されています。Emmentaler・Bravura・Gonvilleの三種類です。視認性や汎用性を考えればBravuraが一番優れています。
 さて、MuseScoreで記譜フォントを変更するには、「スタイルの編集」により行います。メニュータブの「スタイル(S)」の「一般...」より「スタイルの編集」を開くことが出来ます。「スタイルの編集」の「スコア」の「音楽記号フォント」「テキストフォント」から、記譜フォントを変えることが出来ます。「音楽記号フォント」と「テキストフォント」は個人の好みによるところもありますが、フォントの一貫性を乱さないために、基本的には両者同じフォントを使うようにするのが無難です。

テキストスタイルの編集
 MuseScoreのあらゆるテキストのフォントは「テキストスタイルの編集」より設定できます。「テキストスタイルの編集」はメニュータブの「スタイル(S)」の「テキスト...」をクリックすると開くことができます。
 各項目の「テキスト」ではフォントやフォントサイズ、色などを指定することができます。「テキスト」の中のチェックボックス「譜表スペースのサイズ設定に従う」をオンにすると、譜表のスケールに従ったテキストサイズを反映することができます。つまり、ある譜表の「譜表のプロパティ」の「スケール」を80%に設定した場合に、その譜表のスケールに応じてテキストサイズを80%の大きさで表示することができます。
 「オフセット」では、楽譜上に入力した場合の位置を調節することが出来ます。普段はあまり調節する必要はありませんが、例えば強弱記号系の記号は、通常は譜表の下側に配置されるのに対して、歌詞のつく声楽曲は上側に配置されます。このときに、オフセットの設定値を-2.00スペース前後にすれば、譜表の上側に配置されるようになります。
 「位置合わせ」の「水平」では左合わせ・中央合わせ・右合わせを選択することができます。これは特に楽器名の設定時に役立ちます。「垂直」では特に線記号に付随するテキストの設定に関係します。テキストに対して線を上揃え・中揃え・ベースライン揃え・下揃えを選択することができます。
 「フレーム」はテキストの周りを線で囲ったり、背景色を入れたりすることが出来ます。主にリハーサルマークの設定の時に役立ちます。また、強弱記号の背景色を白色にすると、小節と小節の間の小節線と被るように配置しても、小節線の途中を切るようにして線と重ならないように配置できます。(ただし、強弱記号をそのように配置する場合は、私は別の方法をとっているので、こちらの方法はまず使いません。)

タイトル・作詞作曲者名・歌詞
 タイトル・作詞作曲者名・歌詞などのフォントは、作曲家・浄書家の趣味によるところもありますが、印刷される媒体や印刷の質を考慮して決められることもあります。例えば綺麗に印刷される前提であれば歌詞は明朝体が普通ですが、そうでない場合はゴシック体で書く方が良いかもしれません。
 Hashiboso流では、タイトルは「游明朝 Demibold」、作詞作曲者名は「IPAex明朝」、歌詞は「游明朝」を使用しています。また作詞作曲者名及び歌詞のフォントサイズは10ptにしています。

楽器・パート名
 楽器・パート名は、定番な編成ではある程度の省略が可能です。ピアノのソロ曲であれば楽器名を全く記しませんし、合唱曲であれば最初の段のみ表記することが多いです。ただしそうでない編成やオーケストラを代表とする長大な編成の場合は、二段目もしくは2ページ目以降、楽器・パート名の略称を記す必要があります。
 楽器・パート名の名称を編集するには、「パートのプロパティ」を開きます。「パートのプロパティ」の開く方法は「譜表のプロパティ」と同じです。編集したいパートの五線上を右クリックして「譜表のプロパティ」を開きます。「譜表/パートのプロパティ」の下半分が「パートのプロパティ」となっています。「パートのプロパティ」の「楽器名称」及び「楽器略称」で楽器名を変えることができます。ここでは改行も有効なので、ひとつの譜表にSoprano/Altoといった表記も可能です。二段目以降に楽器名を表記しない場合は、「楽器略称」を空欄にしておきましょう。
 (実はver. 2.3以降では譜面上の楽器名をダブルクリックすることでも編集が可能です。)

 さて、MuseScoreはデフォルトでは右揃えで楽器・パート名が表記されます。楽器・パート名を右揃えにするか、中央揃え若しくは右揃えにするかは、浄書家によってそれぞれ異なります。日本の合唱曲では圧倒的に左揃えが多いですが、これは中央揃えでも右揃えでも構いません。右図のように、左揃えではFlutesのような短い楽器名の楽器と譜表の距離が離れすぎてしまうこともあります。右図のような場合では右揃えの方が良いと言えます。楽器名のフォントや右揃え左揃え等を設定するには「テキストスタイルの編集」の「楽器の名前(長)」及び「楽器の名前(短)」を開きます。Sgeyos流では「游明朝」のサイズ12pt、左揃えにしています。

速度標語
 「Andante ♩=72」のような速度標語はボールド体で表されます。速度標語のフォント設定は「テキストスタイルの編集」の「テンポ」を開きます。Hashiboso流では「Palatino Linotype」のサイズ12pt、ボールド体に設定しています。また、デフォルトの状態では、メトロノームの音符表記が小さすぎるので、音符部分のみ20ptに設定しています。テキストの中の一部を編集する場合は、譜面上の速度標語をダブルクリックして、音符の記号のみが選択されるよう範囲指定してから、手動でポイントを変えます。
 さて速度標語の配置位置には注意する必要があります。速度標語は通常、拍子記号の左端に揃えるように配置されています。拍子記号がない小節では、速度標語が有効になる拍の左端に揃えます。よく必要もないのに速度標語を動かしてしまうことを見かけますが、大抵の浄書ソフトではデフォルトの設置位置で拍子記号に揃うように配置されますので、左右の位置を動かす必要はありません。MuseScoreにおいてもほぼ全ての場合、水平位置はデフォルトで正しい位置に配置されるので、むやみに動かしてはいけません。

譜表テキスト
 譜表テキストは、espr.やcantando等の発想記号やritard.やaccel.等の記号を表すのに適しています。譜表テキストの設定をするには「テキストスタイルの編集」の「譜表」を開きます。Hashiboso流では「Libre Baskerville」のサイズ10pt、イタリック体に設定しています。espr.やcandando等の一つの譜表にかかる発想記号は、譜表の上側に配置します。またritard.やaccel.等の一つの段全体にかかる速度記号は、発想記号よりもさらに上側に配置するのが良いです。

強弱記号
 強弱記号は、基本的には譜表の下側に配置されます。ただし歌曲では歌詞が譜表の下側に配置されるため、強弱記号は上側に配置されます。「テキストスタイルの編集」の「強弱記号」のフォントは、パレットの強弱記号、すなわちp,mp,mf,f等の記号に付随するテキストに適用されます。実はp,mp,mf,f等の記号はダブルクリックでテキストの編集が可能であり、poco mf、più ppといった表現も可能です。もちろんpocoやpiùといった強弱記号を装飾するテキストは、譜表テキストと同じ大きさで同じフォントの、同じスタイルでなければなりません。合唱曲等の歌曲で強弱記号を譜表の上側に配置する場合、「テキストスタイルの編集」の「強弱記号」にある「オフセット」の「垂直」を-2.00程度にすると良いです。


小節番号
 MuseScoreの小節番号のデフォルトの位置はあまり良い配置ではありません。例えば、左図のように大きな編成で、セクション毎に小節番号を付する場合に、デフォルトの配置では、縦線と小節番号が被ってしまいます。左図はそれぞれ左から、MuseScoreのデフォルト配置、縦線の左側に配置、縦線の右側に配置したものです。LilyPondに見られる縦線の左側への配置は、小節番号として機能はしますが、縦線の右側に小節番号を記すのが浄書のスタンダードになっています。
 また例えば左図の左側のような位置ではオッターヴァ付きト音記号と紛らわしくなってしまいます。上図の右のように小節番号をイタリック体にしてト音記号の直上を避けるようにしましょう。
 さて、小節番号の設定は「テキストスタイルの設定」の「小節番号」より行います。Hashiboso流では、フォントはフリーソフトのFinale NotePad 2012Jに付属してくる「Maestro Times」を10ptの大きさの斜体に設定し、「小節番号」の「位置合わせ」で左揃えにし、「オフセット」は水平:1.00sp/垂直:-1.00spにしています。ここは使用するフォントによって適するフォントの大きさや「オフセット」の値が変わったりするので、上記の考えに則って位置を決めると良いでしょう。
 また、デフォルトでは段の一番上の譜表のみに小節番号が付されますが、セクション毎に小節番号を付したい場合は、「スタイルの編集」の「ページ」にある「小節番号」のところの「すべての譜表」チェックボックスをオンにし、後に小節番号が不要な譜表の小節番号を非表示にしましょう。一つの段に付する小節番号が一つの場合は、「すべての譜表」チェックボックスをオンにする必要はありません。

リハーサルマーク
 リハーサルマークの設定は「テキストスタイルの編集」の「リハーサルマーク」より行います。Hashiboso流ではフォントは「Cambria」の大きさ12ptのボールド体、フォントを囲う線は「フレーム」よりチェックボックスの「四角」を選択し「境界線の太さ」を0.15sp、「テキストの余白」を0sp、「枠線の半径」を0にしています。リハーサルマークの中のテキストを数字にする場合、「 1 」のように「半角スペース1半角スペース」と入力すると正方形に近い形の□になります。
 またFinale NotePadに付属する「Rentaro」フォントは□付きアルファベットが内蔵されているので、「Rentaro」フォントを使うことでリハーサルマークを書くことができます。この場合は「テキストスタイルの編集」の「リハーサルマーク」よりフォントを「Rentaro」に指定し、フォントサイズを20pt以上し、またボールド体である必要もないので、太字のチェックボックスを外しましょう。またフォントそのものに囲い線が内蔵されているため、フレーム線は不要です。「フレーム」のチェックボックスはオフにしましょう。
 リハーサルマークの位置については諸派あります。小節の縦線の直上に設けるか、または小節の一拍目に合わせるか。いずれにしても統一した置き方であれば大丈夫です。またテンポ記号が付されている小節にリハーサルマークを置く場合に、リハーサルマークをテンポ記号の左に配置する時、テンポ記号を本来の位置より右においても構いません。ただしどちらの記号も効果範囲が明らかであるようにしなければなりません。

反復記号
 楽譜の一括弧、二括弧の反復記号はボールド体で、D.C.やD.S.はイタリック体で表記されます。従って同じくボールド体で表記されるテンポ記号や、イタリック体で表記される譜表テキストにそれぞれフォントを揃える必要があります。「テキストスタイルの編集」には「反復記号文字 左」「反復記号文字 右」「反復記号文字」「反復記号」があります。「反復記号文字 左」はセーニョマークやコーダマーク等で、「反復記号文字 右」はD.S.やTo Coda等です。「反復記号文字」には特に該当するものがなく、「反復記号」は1括弧や2括弧の数字部分です。Hashiboso流ではテンポ記号は「Palatino Linotype」の12ptに設定するので、「テキストスタイルの編集」の「反復記号」は「Palatino Linotype」の12pt、ボールド体にしています。またD.S.やTo Coda等の「反復記号文字 右」は「Libre baskerville」の10pt、イタリック体にしています。デフォルトでのコーダマークがセーニョマークに比べて小さすぎ、サイズのバランスが悪いように思えるので、コーダマークは手動でフォントサイズを大きめにしています。

連符
 三連符における、数字部分の表記には、「Libre Baskerville」のイタリック体を使っています。楽譜上の数字には連符の数字以外にもフィンガリングやオッターヴァ等がありますので、これらと混同されないように記号ごとにフォントを変えるのが良いでしょう。
 MuseScoreはデフォルトでは連符の数字が五線内に入らないようになっていますが、Hashiboso流では五線内に入れても構わないので、「スタイルの編集」→「連符」の「音符からの垂直距離」にある「譜表を避ける」のチェックボックスをオフにします。

クレッシェンド・デクレッシェンド
 MuseScoreのパレットにあるcresc.やdim.の文字記号は、配置の位置については「テキストスタイルの編集」の「強弱記号」、テキスト部分の設定は「テキストスタイルの編集」の「クレッシェンド/デクレッシェンド」で行います。配置については、同じ課の「強弱記号」の項目を参照してください。
 デフォルトではフォントサイズが譜表テキストよりも大きくなっていますが、espr.やcantandoと同じフォント、同じ大きさであるべきです。従って、「テキストスタイルの編集」の「クレッシェンド/デクレッシェンド」のフォント関連の設定は「譜表テキスト」と揃えるようにしましょう。Sgeyos流ではフォントは「Libre Baskerville」でフォントサイズは10ptのイタリック体でした。

 デフォルトのcresc.やdim.は「cresc. _ _ _ _ 」のように点線が下線の位置に付属しますが、本来は「cresc. - - - -」のようにハイフンの位置に点線が付されるべきです。点線の位置は「テキストスタイルの編集」によって調整が可能です。まず「テキストスタイルの編集」の「クレッシェンド/デクレッシェンド」を開き、フォントやフォントサイズを「譜表テキスト」と同じ設定にします。次に「クレッシェンド/デクレッシェンド」の「位置合わせ」の垂直位置を中央揃えにします。これによって線記号部分がテキストの中央の軸に揃えられます。しかし垂直位置の中央揃えは、テキスト全体の高さの真ん中に揃えるため、ハイフンの位置よりも若干高くなります。ハイフンの位置に合わせるには、「オフセット」でテキスト部分の位置を調整しなければなりません。フォントが「Libre Baskerville」の場合、オフセットの垂直は-0.2spに設定すると良いでしょう。

オッターヴァ
 オッターヴァの記号ですが、初期状態では線部分の位置が適正ではありません。記号と線の位置関係は左図のように上向きでは上揃え、下向きでは下揃えにすべきです。MuseScoreでは両方を別々に設定することはできません。オッターヴァの設定は「テキストスタイルの編集」の「オッターヴァ」を開いて調整します。上向きを多く使うと仮定して、上向きを中心に設定する場合、「オフセット」の垂直位置を、0.50sp前後にすると良いでしょう。これは選ぶ記譜フォントによって多少適正な数値は前後します。
 さて通常はオッターヴァは記譜フォントに付属する記号を使うべきですが、Hashiboso流ではGonvilleを使うときに、オッターヴァの記号が小さすぎると感じるため、テキスト部分を「Constantia」の斜体かつボールド体、12ptに設定し、オッターヴァ記号の「線のプロパティ」を開き、テキストの「<sym>ottava</sym>」を「8」に置き換えています。Bravuraでは記号の大きさが十分なため置き換える必要はないです。
 オッターヴァの点線はHashiboso流では太さを0.15spの点線とし、フック部分の高さを2.2spとしています。これは譜面上のオッターヴァを選択した時にインスペクタで線のスタイルや太さを、線のプロパティでフック部分の高さを設定しています。


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