MuseScore2浄書Hashiboso流 第九課

第九課 MuseScoreでのHashiboso流秘儀

疑似レイヤー
 MuseScoreの強弱テキストは、譜面上の諸記号よりも手前に配置されますが、譜表テキストや歌詞テキスト、スラー・タイを除く各種線記号よりも常に後ろに配置されます。この性質を利用することで、疑似的にテキストレイヤーを再現することが出来ます。右図のように小節線の上に強弱記号を重ね、小節線を分断させる時に、強弱記号のテキストを編集して、白い「■」にすることで、小節線を分断することが出来ます。譜表テキストで白い「■」を作ってしまうと、強弱記号より手前に配置されてしまうので、強弱テキストが適しています。

加線短縮
 MuseScoreには個別の加線の長さを調節する機能はありません。右図のような加線の繋がった譜例では、譜表テキストまたは強弱テキストで白い「|」を入力して、加線の上に重ねることで、隣同士繋がった加線を分断させることが出来ます。
 臨時記号と加線との接触を、接触部分の加線を短くすることで解消する場合、強弱テキストで白い「■」を入力して、加線の上に重ね、その上に譜表テキストで臨時記号を入力することで可能です。左図の青い記号は譜表テキスト、赤い記号は強弱テキストで、「|」や「■」を白くすると、左図の上のようになります。


加線偽造
 加線と臨時記号との接触を、加線を短縮することで回避する時、加線を偽造するテクニックを使うこともあります。右図の緑色の符頭の箇所では、テキストで「|」を入力して加線を短縮する方法では、符頭もしくは譜線と「|」が干渉してしまいます。そこで加線を非表示にしてダミーの加線をマスターパレットから入れることで、加線の短縮を実現させます。緑色の音符の左側は「■」を入力する余地があるために、加線短縮のための加線偽造が成り立ちます。左図の加線偽造の方法は、まず緑色の音符の符頭を非表示にします。MuseScoreでは符頭を非表示にすると、加線も非表示になります。そこで、マスターパレットに収録されている符頭と加線を譜面上にドラッグして入れます。符頭は使用している音楽フォントによって形がそれぞれ異なるので、同じフォントのものを使用します。加線はBravuraの加線(Leger line)がMuseScoreのデフォルト設定の加線と同じ太さなので、それを用います。図では、緑色の音符の右側は「|」入力による短縮の余地がなく、左側には「■」入力で短縮が可能なので、右隣の音符の加線と接触しないように設置します。左側にはみ出た部分は、「■」で加線を短縮します。これで、図のように加線を短縮することが可能です。また加線偽造のテクニックは、第十課での「加線の長さが勝手に削られる仕様」での対処法としても用いることが可能ですので、留意しておきましょう。

符頭の中央に符尾
 ×符頭の音符では、しばしば符頭の中央に符尾がくっついて書かれます。MuseScoreではそのような音符を書く機能はありませんが、音符のインスペクタの「要素」の位置と「コード」の位置の数値を調整することで、同様の音符を再現することが可能です。右図の下向き符尾の場合は、音符のインスペクタでの数値は図の通りです。上向き符尾の場合はそれぞれ符号を反対にすることで、符頭の中央に符尾を乗せることができます。数値を入力すると、符尾の長さが若干短くなるので、符幹の長さを既定の長さになるように伸ばしましょう。(図の数値はGonvilleまたはBravuraを使用している時のものです。Emmentalerの場合は若干適正数値が異なります。)
 さてこの方法は実はヨーロッパの言語の歌詞との相性が良くありません。左図のように、単語の音節を区切るハイフンと、メリスマを示すアンダーラインの位置が、音符のコード垂直位置の数値分、下に下がって配置されてしまいます。このような場合は、音符の要素/コードの垂直位置を弄らず、符幹の要素位置で調節するか、強引な手段ですが譜表テキストでハイフンを、アンダーラインを直線記号で再現します。

段を跨ぐ連桁
 小節を跨ぐ連桁はMuseScoreに実装されていますが、それが段を跨ぐ場合MuseScoreでは対応していません。右上図のように段を跨ぐ連桁を書くには、二通りの方法があります。一つは音符の要素位置とコード位置の挙動の違いを利用した方法で、もう一つは別声部で音符を偽造する方法です。
 要素位置とコード位置の違いを利用した方法は左図のように、まず音符の要素の水平位置をずらし、次に符幹の水平位置を同様にずらします。その後、音符のコードの水平位置を反対方向に要素位置と同じ程度ずらします。こうすることで、連桁のみがはみ出るようになり、段を跨ぐ連桁を再現することが出来ます。ただし、この方法にはデメリットがあります。一つは予め連桁を伴った音符でないと出来ない点です。p.32「段を跨ぐ連桁」右脇図の16小節目の譜例のように、小節末の一音から次の小節に跨ぐ連桁は、この方法では再現できません。また、段を跨ぐ連桁の連桁と小節線との距離を固定するのが難しいのもデメリットです。
 もうひとつの方法は、右図のように、本来の声部の連桁を非表示にして、別声部で連桁を偽造することで、段を跨ぐ連桁を再現することが出来ます。


Ossia再現
 MuseScoreにはOssiaを書く機能がありません。下図の方法でOssiaをある程度再現することが出来ます。但し下図は、一番上の譜表に表記するOssiaに限ります。譜表プロパティの「段の縦線」の表示非表示は、一番上の譜表でのみ機能が有効であるため、譜表の下にOssiaを設ける場合は、段の二小節目からOssiaを表記するということは出来ません。Ossiaのために譜割りを変えるのは本望ではありませんが、譜表の下に設ける場合は、Ossiaの画像を挿入するか、段の一小節目にOssiaが来るようにレイアウトをするしかありません。

トレモロ偽造
 MuseScoreのトレモロの線の太さは変えることが出来ません。このことは、連桁の太さを変えた場合にトレモロが連桁と異なる太さになってしまいます。そこで、連桁とトレモロの太さを一致させるために、Hashiboso流ではトレモロを偽造することがあります。下図のようにトレモロ用の連桁は別声部で作成し、コード水平位置で連桁を適切な長さにして偽造します。


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