MuseScore2浄書Hashiboso流 第七課

第七課 スペーシング

 スペーシングは音符と音符の間のスペースを調整することで、音符をどの位置に置くかによって楽譜の演奏のしやすさが大きく変わります。音符の配置は、音符のリズムだけでなく、加線や臨時記号、他パートとの関係などに影響されるので、浄書工程の中では一番悩ましい工程になります。

音価との関係
 一つの音符が支配するスペースは、基本的に音価が長い順に長いスペースを取ります。ただし音価とスペースは比例の関係ではありません。右図の下のように、二分音符が四分音符2つ分のスペースを取ると、却って二分音符が実際より長く見えてしまいます。右図の上のように自然に見える程度のスペーシングが望ましいです。
 Hashiboso流ではスペーシングはひとつの小節内だけでなく、一つの段の中で統一させます。例えば一つの段の複数の小節に八分音符があれば、それらの幅は基本的に揃えます。

連符と連符
 MuseScoreでは異なる音価の連符が重なる場合に、余分に幅を広げる仕様になっています。例えば右図のように三連符の間に八分音符が入る場合に、デフォルトでは三連符の一部が余分に広がってしまい、いびつなスペーシングになってしまいます。右の譜例では小節の3,4拍目の三連符と八分音符はそれぞれ2小節目のように揃えることが可能です。ちなみに小節全体を八分音符に注目してみると、1,2拍目よりも3,4拍目の幅が広いですが、3,4拍目の最小音価は三連符であるため、最小音価が八分音符である1,2拍目より幅が広がるのは一般的なスペーシングです。

臨時記号と音符
 臨時記号がある音符は、前の音符との幅を通常のスペーシングよりも広げることがあります。臨時記号付きの音符のスペーシングには二通りの考え方があります。一つは臨時記号が入る最低限のスペースを空ける方式です。Hashiboso流では主にこの方式を採用しています。
 
 基本的には音符のスペーシングへの影響を最小限に抑えますが、あえて臨時記号の左余白を設ける方が見やすい場合もあります。上図の左側は音符のスペーシングを優先して最小限の臨時記号のスペースのみを確保していますが、若干乱雑に見えると思います。上図の右のように臨時記号の左余白を適度に設ける方が、譜面が整っているように見えることもあります。但しこの場合、本来の音符のスペーシングから離れてしまうので、アンサンブル譜面などの他パートがある譜面や、声部が分かれていて異なるリズムが同時に出現するような譜例での採用は注意が必要です。

歌詞と音価
 MuseScoreは音符に歌詞を入れると歌詞の文字数分だけ音符のスペーシングを広げる仕様になっています。これはヨーロッパの諸言語が単語と単語の間にスペースを設けて書く言語で、MuseScoreはその言語の特性に合う仕様となっています。しかし日本語の場合、通常文字と文字の間にスペースを入れずに書きます。そのためMuseScoreの仕様は日本語曲を浄書する上では障害になります。
 歌詞一文字だけでもスペーシングが掛かってしまうので注意が必要ですが、特に音符一つにつき二文字以上の歌詞の場合は、右図のように多くの幅をとってしまいます。日本語の歌詞の場合はほぼ全ての歌詞によるスペーシングをキャンセルしなければなりません。
 複数文字の日本語歌詞の位置は一般的に音符に対して中央を揃えますが、Hashiboso流では長い音価の音符につく複数文字の歌詞に限り、歌詞を音符に対し左揃えにします。これは音符が演奏され始める段階で発声する文字が、複数文字の一番左の字であるため、音符を演奏する瞬間と歌詞を発声する瞬間を揃えたいと考えているからです。
 英語やイタリア語などの言語では単語と単語の間にスペースを空ける必要がありますので、譜面上でも半角スペース程度の空間を空けます。これにより同じ音価の音符の幅が等しくなるとは限りません。

背合わせ・腹合わせ
 隣り合う音符の符尾の上下の組み合わせによっては、等間隔に音符が並んでいても等間隔に見えないことがあります。音符のスペーシングは基本的に符頭の位置を基準に行いますが、右図のように符幹を基準に揃える方が良い場面があります。上向き符尾と下向き符尾が向かい合っている場合は、多少スペースを広げた方が、間隔が整って見えます。これを背合わせのスペーシングと言います。下向き符尾と上向き符尾が向かい合っている場合は、多少スペースを狭めた方が整ったように見えます。これを腹合わせのスペーシングと言います。
 符尾の背合わせ・腹合わせのスペーシングは、通常の符頭基準でのスペーシングから間隔を個別に調整するため、他のパートのあるスコアの場合、個別の調整の結果、他パートのスペーシングに影響が出ることがあります。複数のパートのあるスコアでは、こうした符尾の背合わせ・腹合わせのスペーシングは他パートに影響の出ない範囲内に納めるべきです。
 左図の二度音程がある譜面では、デフォルトでは左図の上のように、二度音程で拍より右にずらした音符のスペースがずらした分狭くなります。そこで、狭くなっているスペースを、本来(左図では八分音符)のスペースに合わせることで、より自然なスペーシングにすることができます。




加線
 加線は一定の幅を持っています。従って加線のある音符は、隣り合う音符の加線が接触しない程度の間隔を保ちます。


 さて左図の上は、この小節幅では加線幅の制約により、32分音符、6連符、16分音符が同じ間隔になっています。基本的にはスペースが音価順になることが望ましいのですが、既定の加線幅ではそれは実現しません。この小節幅で音価順のスペーシングを実現するためには、32分音符の加線を短縮することで可能になります。ただし加線の長さは長い方が高い視認性を持つため、加線を短縮せずに音価順のスペーシングが実現される譜例では加線を短縮しません。

音部記号
 途中で音部記号が変わるような箇所では、音部記号分のスペースが考慮されることがあります。ただし基本的には右図のように音部記号によるスペーシングへの影響は最小限に抑えます。下図のように音部記号の左余白を若干考慮する場合もあります。




トレモロ
 右図のように二音程間のトレモロの場合、1/2の音価である音符としてスペーシングを行います。左図のように四分音符のトレモロであれば、八分音符のスペーシングとして考えます。MuseScoreはデフォルトでこのようなスペーシングになります。
 しかし、このスペーシングの考え方は、二音程間のトレモロで繋がれる後ろの音程において、譜面上の位置と演奏のタイミングが一致しないことを考慮していません。左図の上は、トレモロで繋がっている2音目のG音が、左手の2拍目3拍目の四分音符に挟まれるように、八分音符のスペーシングで配置されています。しかし、2音目のG音はスペーシング上の2.5拍目に演奏されるわけではありません。従って、そこに八分音符を基準とするスペースを設ける利点は、演奏上においてはありません。Hashiboso流では、二音程間のトレモロで接続された2音目が音符と音符の間にある場合、トレモロを1/2音価の音符ではなく、本来の音価のスペーシングを適用します。左図の下では、G音のトレモロは1/2音価である付点四分音符としてスペーシングするのではなく、付点二分音符として考え、A音のトレモロは1/2音価である八分音符としてスペーシングをしています。


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